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頭の中で筋書きを描いてみる。
騙す、ではないけれど、どうすれば業務外から業務内に戻れるのか作戦を練らなければならない。
ここは情動的にいってはならない。
良心的ではなく、共感性にとらわれず、たとえ誰にどんな非難をされようとも冷静に…って、それ、サイコパスって言わない?
自分の命を削るために、って、それってちょっとどうなの?
いやいや、でもでも、私、もう死んでますから。
ここにいるけど、いないようなものですから。
ここにいる私は星の命が枯渇するまで生きているようなもんですから。
そんな無駄に生きたくもない。
おいしいごはん。
太陽の恵みいっぱいのおいしいごはん。
それを毎日普通に食べられる生活があなたの未来にあるように。
こんこんっと夜も深くなった頃に扉を叩く音がした。
「はーい」
返事をして、バルコニーの星空の下から部屋の扉へと駆け寄って、扉を開けるとキースさん。
「まだ起きていたのですか?エレナ」
扉が開いたことに驚いてくれる。
「絶対きてくれるって思ってましたから。遅くまで会議、お疲れ様です。ん、私のごはん」
飛びつくように抱きついてキスをせがむと私の唇にキスをくれる。
メイドさんに魔法のごはんはちゃんともらったけど。
私のごはんはこれ。
「どこも欠けていませんか?朝にあげたきりだったので心配していました」
キースさんは短いキスで、私を点検するかのように見てくれる。
メイドさんにお世話をしてもらったあとだからパジャマ姿。
真っ白膝丈のネグリジェ姿。
レースひらひらふわふわのなにか可愛らしいものはメイドさんが選んだからである。
最初の聞けなかったときに比べると、もうすっかり仲良し。
キースさんがあとからくるかもしれないからと、キースさんに会っても恥ずかしくない可愛いパジャマということで、これが選ばれた。
今のところ、どこもなんともないよーとキースさんに見せるためにくるくるまわって、こっちも見てみる?とネグリジェを捲ろうとしたら手を止められた。
これくらいで盛るはずはないとは思ってる。
「太ももやお腹も欠けてないって見せようとしただけですよー」
「欠けてません。肌を見なくてもわかります。星を見ていたんですか?」
「朝や昼より夜のほうが空が綺麗ですから」
手を差し出されて、ぺしっとお手をすると私の手をひいてバルコニーへと連れて行ってくれて、少しの夜のデート。
空には無数の星の煌めき。
ロマンチックだ。
このデートが1番好きだ。
なんて、うっとりしようと思っていたのに。
かくんっといきなり私の足が折れた。
慌てたようにキースさんが両腕で支えてくれた。
私もキースさんの腕を掴んで、なんとか倒れ込むことはなかったけど。
嫌な予感がしながら足を見ると、なにがあった!?と言いたくなるような、バラバラ殺人のような私の右足が転がっていた。
別に足は痛くはないけど、足があると思うそこに足がないからバランスを保てない。
しかもバラバラの右足は風に吹かれて砂になるかのように目の前から消えていってしまう。
……人間ではない。
自覚するときほど、こんなの続くわけないと自嘲するようにも思う。
キースさんは私をバルコニーにあったベンチに座らせて、私の足元に屈んで足を治してくれる。
その手が私の足を包むようにふれて、離れるとそこに私の足が戻ってる。
戻るときにキースさんの手のひらの温度が伝わる。
ここに戻ってきたことがわかる。
私の子供のような小さな足がキースさんの手のひらで包まれて、つま先も感じられるようになる。
あなたのための体。
それでいいと思う。
私は1人ではこの体を維持することは不可能だろう。
メンテナンスが必要になるニセモノの体。
「痛くはありませんか?」
「大丈夫です。……胸も消えちゃってません?ベルソレイユが基本になってるはずなのに、それより小さいです」
キースさんの手をとって、私の胸元に引き寄せて、その手を胸に抱いてみた。
「……魔法を当ててみましたが、そんなことをしてもそこの大きさは変わりません。クリスティアの因子がそれより大きくしなかっただけだと思います。形成の大部分は因子に基づいているので」
夢も希望もないことを仰ってくださる。
私の足が見慣れた足にしかならないように、胸も大きくなることはないらしい。
ついでにものすごく冷静にしてくれて、なにか恨めしい。
「それに少しは柔らかさを感じるので生前のエレナよりはふくよかになってるほうだと…」
更に余計なことを言おうとしてくれて、私は夜だしと喚くのはやめて、ぺちっとキースさんの頬を叩いていた。
それは言うな。
お風呂で溺れる私を助けたんだから、私の裸をキースさんが知ってるのはよくわかってるけどもっ。
……がりがりのしおしおだったな、と、今のこの体に比べると私も思う。
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