さよならの前に

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だけど。 がりがりのそのなんの魅力もない体のほうが本物ではあった。 指を切れば血は流れるし痛みもあった。 体が欠けてもこの体に痛みはない。 ニセモノ。 だけど、キースさんがくれた私の大切な入れ物。 今は私の体。 「これ、髪の毛や瞳の色、私にすることできないですか?」 胸の大きさは無理としても、そこならと言ってみると、キースさんの手のひらが私の髪を頭を撫でる。 「ストレートの髪で…黒で…。長さはどれくらいがいいですか?」 「脇くらいの少し長め」 16の頃の私の髪。 キースさんの指が毛先へと滑っていくと、それだけで私の髪が変化した。 さすが私の神様。 私は変化した自分の黒い髪を摘んでうれしくなる。 キースさんの手のひらは私の目の前にかざされて、目を閉じるとかすかに瞼にキースさんの指先がふれる。 手のひらが離れて、目を開けてキースさんを見てみる。 瞳の色はさすがに自分で確認するのは難しい。 鏡が必要だ。 「瞳の色、かわりました?」 聞いたら、私の座るベンチにキースさんの手がついて。 その体が私に寄せられて。 「エレナが完成してしまいました。それでも俺の?」 すぐ近くに私を見て、そんな問いかけをくれる。 「がりがりのなんの魅力もない私の体も、ここにある若い私の体も。キースさんのもの」 当然のようにそう答えると、その目がうれしそうに笑んでくれる。 唇にふれる唇。 私の頭を髪を優しく撫でる手のひら、指先。 いっぱいキスした。 その私を求めてくれる唇がうれしくて、キースさんの唇に身を任せていると、その手のひらは私の体を撫でる。 おやー?と思っていたら、ネグリジェの中の足を撫で回されて、私が赤くなる。 ここ、バルコニーだし、ベッドいこ?と言ってとめていいのかわからない。 膝の後ろに手を当てられて抱き上げられたと思ったら、私はキースさんの膝の上に座らされていた。 いや、だから、ここバルコニーだしー。 なんて思ってベッド運んで運んでとキースさんに抱きつく。 甘えていいよとでも言ってくれるように、私の頭を胸に抱き寄せてくれる。 幸せである。 らぶらぶのいちゃいちゃで幸せである。 「……結婚、しませんか?」 思ってもみなかったそんな言葉が頭上に聞こえて、え?と顔をあげると、キースさんは私を見ていた。 え?え?と頭は混乱する。 混乱している私を見て、キースさんは笑って笑顔を見せる。 「エレナの心も俺のものにしたいから。結婚しよう?俺の子供つくって」 まさかキースさんの口からそんな言葉が出るとは思わなくて、目をぱちくりさせまくってしまう。 「エレナと俺の子供が消えたら、俺も死ぬから」 言葉がそう続くとがばっと体を起こして、キースさんの顔を両手で掴んだ。 「絶対絶対そんなのやだっ!!」 夜中なのはわかってるけど大声で叫んでいた。 私は死んでもいいけど! キースさんが死んだら、それこそこの世の終わりだ! 次を任せられる優秀な人材があるわけでもない! 「俺も賭けてもよくない?自分の命。君がいなくなるって、つまりそういうことなんだよ」 「どういうことかわかんないっ!」 「俺にはなにもなくなる。いらない重責やなんの役にも立たない力しか残らない。はっきり言って世界の命運なんかもうどうでもいいんだよ」 キースさんの弱音、だった。 ずっと、私は聞いていたようなものかもしれない。 逃げ出したい気持ち、わからなくない。 なにもしないで任せてるだけの偉い人たちになにか凹まされたのかもしれない。 なにも言えなくて。 慰めたい気持ちでよしよしとキースさんの頭を撫でた。 キースさんは私の体をぎゅっと包むように抱きつく。
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