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いつものようにメイドさんがきて。
メイドさんより早く私の部屋にいたキースさんを見て、どこか冷やかされながら朝の支度を整える。
キースさんが出してくれたごはんを食べたら、いってきまーすとお城を出た。
お城の外は闇。
キースさんが手を握ってくれて、私の足元を照らす明かりを出してくれているから歩けるけど、1人で明かりだけおいていかれても、こんなところは歩けそうにない。
目を閉じて歩いているのと変わらない闇。
しかも、どこからか獣が唸るような声が聞こえてきていて、とても安全とは思えない。
「なんかいます、絶対」
私はぶるぶる怯えながら小さな声でキースさんに言ってみる。
「変異してモンスター化した獣がいます。防御壁の外は凍っているので生き物はほぼいない死滅した世界ですが、ここは防御壁の中のほぼ人が出歩かない場所なので、モンスターの巣窟のようなものです」
いや、それ、平然と言わないで?
死んじゃう。
こんなとこいたら絶対死んじゃう。
私、死んでるけど。
なんて思いながらキースさんに手をひかれてついていっていたら、なにか獣の悲鳴が聞こえた。
思わず私も大きな悲鳴をあげていた。
やだやだやだーとキースさんの腕にしがみつく。
「大丈夫ですよ。ちゃんと近寄れないように防御壁を張ってますから。むしろ、あちらが眠っていたのに壁に弾かれて起こされて、不機嫌に怒ってるんです。でも変異した可愛げもない生き物ですから。光の範囲にきてその姿を見るほうが嫌かなと」
なんとも言い難い。
気持ち悪いモンスターを見たいとも思わないし、モンスターさんごめんなさいとも思うし。
「起こすのはかわいそうです」
そっちをとってみた。
「じゃ、防御壁の範囲を少し縮めます。なにか飛んできたら避けてください」
「無理ですっ!」
見えないのに飛んでくるものをどう避けろとっ!?
私の体、いきなり引き寄せられて。
なにかと思うと、キースさんの手にはいつの間にか針のようなものが数本握られていた。
「無理みたいですね。やっぱり範囲を広げましょう」
ひ弱そうなのに。
意外と武闘派なのかもしれない。
「キースさんが闇の中で育つ植物を作っていたんですよね?」
「つくったわけではありません。枯れ木ばかりの中で育ってるものを見つけ、研究していただけです。肥料を与えてみたりしたので育ててしまったかもしれませんが。生き物を食べる巨大化した植物はさすがに燃やしておいたので。いえ、燃やしてしまったからモンスター化した獣が増えていってるのかもしれませんが」
なにか生態系をいじっていらっしゃる。
王女様がやめろと言っていたのがわからなくはない。
ベルソレイユに関わる研究をやめなかったから、今の弱音がキースさんにできてしまったとも考えられるし、王女様はまちがってはいないと思う。
お互いに譲り合わないからケンカによくなっていたけど。
「着きました。ここです」
キースさんは施錠をといて、その扉を開ける。
開けても中も外も真っ暗。
お城、帰りたい。
あそこ、安全。
この国で唯一暮らせる場所かもしれない。
バルコニーのすぐそばにはキースさんが育てた妙なりんごの木があるけど。
安全。
なんて足を進めるのを嫌がっていたら、キースさんは気がついたようにその建物の中を明かりで満たしてくれる。
眩しいよぅ…。
眩しくてなにも見えないよぅ。
目が潰れそうだよぅっ。
その瞳、私もほしい。
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