さよならの前に

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「じゃ、新しい入れ物創っておいてください」 「簡単に創れるもののようにだから言わないでください!クリスティアが犠牲になったのは6年前ですよ?6年かけて創り出せたものだとでも思ってください!」 すんごい労力の結晶かのように言ってくださる。 とりあえずはありがたやーとさせてもらう。 「それにそれはベルソレイユの真似をしようとしたから不安定なんです。ベルソレイユを創っているものがなにか話したことあるでしょう?元にある因子の核と魔法で創った素体。だから『欠ける』んです。因子に任せた幻のような肉体なんです」 うんうん。わかってる。大丈夫。 これが脆くて、簡単に消えるのはもう理解した。 だから消えてなくなる前にがんばる! ……って言えば、やめろとしか言われないのはわかってるから言わない。 「あのぅ、お話の途中申し訳ないのですが、キース先生、私のものって印、まだ刻めてないほうが気になるのですが」 忘れられてない? 話をかえるようにおずおずと言ってみた。 「……エレナが絶対わかってないから。戻らないんです、それをなくしたら。二度と」 キースさんはだからいやだとでも言ってくれるように言う。 大丈夫。二度と戻らないなら、無駄に消えたりはしない。 ……私が在ることをわかってくれていて。 私がなくなることをわかってくれて。 惜しんでくれる人がいるのは幸せなものだ。 「結婚!まだできていないことのほうが私には気がかりなんです!」 流されないように負けないように言ったら溜息をついてくれる。 「どこがいいですか?浮気を考えて陰部につけられる方もいるみたいですよ?」 うわー。それ、すっごい意味ない。 そこ見せるくらいまではいっちゃってるんだと思うし。 あとキースさんは簡単にえっちしそうにない。 するなら本気だろうし浮気じゃないし無意味。 「パス」 「あとは見えるところの好きな部位ですね。顔につけます?」 顔!? その美形な綺麗な顔になんかわかんないものつける!? 絶対だめー! 好きな部位なら私はここだ。 私はキースさんの手にふれる。 手ならやっぱりここかなと薬指。 「ここに指輪みたいなのお願いします!」 「もっと目立つところでいいですよ?手の甲とか」 そんな目立つの絶対いやっ! タトゥーみたいに飾りになるのかもしれないけど、やだやだやだっ。 「指輪つけたいんですっ!」 「エレナの国の儀式ですか?」 「ですです!既婚の証は左手の薬指!これ、いただきます!」 私はぎゅっとキースさんの左手の薬指を握る。 「その指使わないので本当に持っていってもかまいませんよ?義指つければいいので」 指っ!? そりゃ、指切りなんてものが日本にはあるけどもっ。 確かにそれも深い約束の意味ではあるけどもっ。 指を切って渡されても私が困るっ。 「指はいりませんってばーっ!」 やだやだとしたらキースさんは笑って、キースさんの左手の薬指にふれる私の手に右手を重ねた。 「この指にする理由は知ってます?」 「さぁ?」 「ざっとエレナの世界を覗いてみたところ、俺と同じみたいですよ?相手の心を強く掴む。エレナが意図したとは思いませんが」 まったく知らなかった。 掴めるなんてまったく思わないけど、キースさんがその意味を知ってもここでいいならそれでいい。 「掴んじゃっていいですか?」 「俺も掴みましたから。当然でしょう?……力を使うのでエレナもここにエレナの望むものが描かれている姿を浮かべてください」 うーんと悩んで。 目を閉じるとキースさんの指に指輪を妄想してみる。 シンプルなリングじゃなくて、少し模様があるほうがいい。 その綺麗な指に似合うような。 シルバーがいいけど黒で。 太さは細すぎず、太すぎず。 これというのを描く。 「はい、できた」 言われて目を開けて、そのキースさんの指を見ると、なにがどうなっているのか、本当に私が妄想したものがそこにあった。 なんでなんで?となる。 「私の頭の中、覗きました?」 「覗けません。この模様……」 キースさんも自分の指を見て、なにか思い当たったかのように言葉を止める。 「なにか術式にあったりします!?適当に描いちゃった」 「そこに俺が描いたやつです」 キースさんは地面を指さして、え?と思って見ると、確かにそれだった。 勝手にもってきてしまったらしい。 「なんの意味です?これ」 「結婚や契約の儀式に用いられるものです。この陣の中にいる間は何者にも関与できず、その契約した内容を一方的に破棄することはできない、というような。ただ、ここにあるエレナが描いたものだけにするなら…」 「するなら?」 「守護結界かもしれません」 あながちまちがってはいないように思う。 そんなつもりはなかったけど。 まちがってなさそう。 「……クリスティアが入ってませんか?その因子がなにかしら関係してこれを描かせたように思うんです」 キースさんはじーっとあやしんだように自分の左手の薬指を見る。 「王女様と結婚しちゃったのかもですね? 」 なんて言ってみると、頬をぎゅっと摘まれた。 「いたたたっ」 「俺はエレナをもらうんです!その体も心も。俺のものです!」 頬摘んで言わないで? もうちょっと甘くして? 「私はキースさんのものですってばーっ。キースさんに尽くすんですっ!キースさんを凹ませるやつらなんか、痛い目見ろ、なんですっ」 キースさんを凹ませたのがどんだけ偉い人なのかはわかってはいるけど。 なんにもできないくせに偉そうにふんぞり返ってる姿が想像できて、親指下に向けたくなる。 地獄に落ちろ。 落ちたくないなら出資しまくれ。 いや、この世界でお金はあまり大切ともなりそうにないから、優秀な人材持ってこい。 キースさんより優秀な人材を用意できてから口を出せ。 こんなイケメンエリート、他にはいないだろーが。 さすがにキースさんを前にそこまで吠えることもできずに思っていたら、私の体はぎゅっとキースさんに包まれた。 「次は子供ですよ?エレナ」 「妊娠できます?血液なさそうですよ、この体」 「ありません。卵もないはずです」 無理じゃん! 私はキースさんから離れて、その顔を見る。 「なので、今、ここで創ります。そのために城から離れたんですから」 「どうやったらできるんです?魔法ですよね?」 「エレナの唾液を血液にかえます。妊娠できる環境をその体に創ります」 「……なんか改造されるみたいですが」 「改造します。俺の子供を産ませるのに必要なので」 どこかこわい。 私、このままでいい。 子供はいなくても大丈夫。 「そんなのしたらお腹だけ消えることなく残りそうなので絶対嫌です!」 吠えるように言ったら、にやりと嫌な笑みを見せてくださる。 「有袋類みたいなものになるかもしれませんね?」 ゆうたい……、確か、それは……。 頭の中にぴょんぴょん飛び跳ねるオーストラリアの動物が浮かぶ。 カンガルー。 ……。 待て。やめろ。 それ、人間じゃない。 哺乳類ではあるけど、そんなのバケモノだ。 私は身構えて、ふーっふーっとキースさんに威嚇。 「大丈夫ですよ。子宮つくるだけです」 無理っ!そんなの無理っ! 簡単にできるわけないっ! 人体の神秘を魔法でつくるなんて絶対よくない! 「嫌がってもダメです。元々クリスティアが未分化だったので因子をちゃんと女性にするだけです」 「王女様、王子様だったの!?」 「女性の姿をさせられた中生体です。女性になったら俺と結婚と言われていました。消えたので無視していい話だと思ってます。むしろ、クリスティアと結婚は絶対にしたくないです。見た目は女性ですが、あれ、はえてるので。もう分化はして男性でいいはずなのですが、男くさくなることもなく王女のまま消えてしまいました」 「……私、はえてません」 「はい。はえてきたら切ってやろうかと思っていたのですが、女性になりました、その体。クリスティアの因子を実験材料にしたのは、1番身近にいた人で中生体だったからです。なので子宮がないはずです。その体にふれたときに骨の感触もあるので中身は空っぽでもないとは思いますが、ここでちゃんと調べさせてもらいます」 王女様も大変な人生を過ごされていらっしゃったかと思われ……、王女…様? 夢の中のお話を浮かべる。 親友。 仲良し。 合っていた。 ……王女様と結婚。 複雑だ。 なんとも言い難い。 というか。 私、モルモット嫌です、神様。
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