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でも私にそれが必ずできるとは限らない。
お話はまだまだなにも聞いていない。
聞く前から賄賂のようにいい待遇をいただくのは間違っていることのようにも思う。
私は神様でもなんでもない。
魔法なんてものも使えないただの人間だ。
私にはできませんと言うのも心苦しいことになるのだけは避けないと、自分で自分の首を絞めることになりかねない。
手にしていたキースさんから借りたローブを返すと、こちらですとキースさんは歩き出す。
ここが広い大きな建物なのはよくわかる。
一つ一つの部屋も大きいようで廊下も長い。
行き止まりと思えるところでキースさんは立ち止まる。
ここになにがあるのかと私はまわりをきょろきょろと見る。
「転移魔法陣ですよ」
言われてから気がつくと足元に魔法陣。
私が召喚されたらしき場所にあったものは光っていたからわかったけど、光ってないとまわりも薄暗くてわかりにくい。
「魔法…ですか?」
「そうです。この魔法陣を起動するための呪文は限られた者しか知ることもありません」
呪文という鍵のように思う。
ホテルやビルの高層階へいくエレベーターのカードキーのようなものかもしれない。
そんな鍵を使ってどこに連れていかれるのだろう。
手を差し出されて、わからないけど反射的にお手をするように手を重ねた。
ヴッというような機械音のようななにか物音が聞こえたと思ったら、あたりは眩しい明かり。
眩しくて目を覆うように腕を盾にして目を細めてまわりを見る。
一瞬にして暗い廊下から明るい広い部屋に移動したらしい。
魔法というものが存在する世界。
異世界なのはまちがいない。
あまりに眩しくて、なかなか目が慣れてくれない。
まわりをよく見ることができない。
それでもキースさんが私の手を引いて歩いてくれるからついていける。
1人だと闇の中のようになにも見えなくて進めないとなるところだった。
目が痛いくらい眩しい。
「……眩しい、ですか?」
キースさんが聞いてくれて私は頷く。
「瞳孔が閉じにくいのかもしれません。瞳の色もまわりが暗くても見えるようにと薄い色になっていますから光を集めやすいのです」
そんなことをいきなり言われてもよくわからない。
瞳孔って猫とか動物のあれ?
目を1度ぎゅっと閉じて、ゆっくりとまた目を開けてと繰り返すと、眩しくはあるけど少しはまわりを見れるようになった。
なにか待合室のような部屋。
ソファーと机と。
どこか豪華な部屋。
私はソファーへと案内されたらしい。
「どうぞお座りください。もう少し明るい場所に目が慣れたらいきましょう」
私の前には背の高い男。
明るいところで初めてキースさんを見た。
黒髪のイケメン。
ただ、その瞳が猫の目のように細くなっている。
それが瞳孔というものだろう。
その肌は白い。
真っ白と思えるほど白くて少し不気味にも思う。
瞳孔。
目をしぱしぱと強く閉じたり開けたりを繰り返す。
「瞳孔、収縮しました?」
私はキースさんに見てもらおうと言って、キースさんはその顔に小さく笑みを見せた。
好青年のイケメンな笑顔だ。
「これは私の目が特殊なだけですよ。蛇や獣の目のようでしょう?」
特殊なものだったらしい。
思えば普通の人間ならそんなふうに瞳の大きさが変わることはない。
瞳の中の更に奥の中心の黒い部分が瞳孔と学生の頃に習ったようにも思う。
異世界だからキースさんのようになるのが普通かと思った。
「特別なもの、ですか?」
「いいえ。私の瞳は環境によって変異したものではありますが、今は施術によってこの瞳にすることも可能です。生き物が持つ環境への適応力というものです。私の場合は瞳の色も暗いところと明るいところでは瞳孔の収縮と同時に変わります。暗い場所で生きられるように」
暗い場所で生きなきゃいけないなんて、どういう環境なのだろう?
私は夜中でも普通に明かりがあるところで生まれて育った。
コンビニや外灯、ボタンを押せばつく電気。
明かりがない世界のほうがまったくもって想像つかない。
「エレナ様、あなたに救っていただきたいと私は言いました。覚えていらっしゃいますか?」
様!?
なにか偉い人のような扱いをされたようで戸惑ってびくっとなる。
「す、救えるかなんてわかりませんがっ」
覚えてはいると頷かせてもらう。
「私にもエレナ様に救っていただけるかはわかりません。それでもあなたに賭けるしか道がないのです」
賭け事!?
というか、そんな切羽詰まったような賭け事はやめよう!?
私の責任、重大になりそうだしっ。
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