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立ったままだった私はキースさんにソファーへと座らせられた。
お話をここでするようだ。
ふかふかで少しかためのソファーは見た目も豪華だけど座り心地もいい。
豪華なホテルのロビーにあるソファーよりいいもののようにも思う。
待遇はすごくうれしくはあるのだけど、やっぱりいろいろとわけわからなくて不安が増えるばかり。
賭けるしかないくらい私はキースさんに望まれている。
それはわかるけれど。
断ってもいいとされていた。
……断ってもいいなら、そんな賭けるしかないって言わないでほしい。
キースさんは私のそば、ソファーの下で膝をついて私がキースさんを見上げないようにしてくれる。
「この世界はあなたがいた世界と似た世界です。魔法技術の進展があなたの世界より優れているものだと思われます。ただ、この世界にはあるべきものが失われてしまったのです」
「あるべきもの?」
「太陽という天体です」
それを言われて、いつかどこかで聞いた太陽が死ぬお話を思い出す。
いつかは太陽も燃え尽きるというお話を聞いた気がする。
だけどそれは現代に生きる私たちからは遥か遠い未来。
確か星の命のお話のときに聞いた。
若い星は何色とかそういうの。
まぁ、太陽は燃えているというし、可燃するものがなくなればいつかはなくなるのだろう。
ただ、だけど、確かに窓の外は真っ暗だったけど、まったくもって信じられるものはない。
私の世界で太陽がなくなったら生き物は絶滅だろう。
熱を与えるものがない。
地熱というものはあるけど。
そこまで考えて、それが星の命になるように思った。
他者である太陽から与えられるエネルギーではない、地球が持っているエネルギー。
「明かりとなるものは魔法技術のお陰でこのようにあるのですが、魔法を維持するにもなにもないところから供給できるでもなく、この星の命を使っているのです。…そうですね、そういう大層な言い方ではなくすのなら、どの鉱物にでも含まれる物質、アトムやウランのようなものです」
その2つを聞いて思い出せるのは私には原子力というものだ。
私の生きてきた世界の主なエネルギーというもの。
わかりやすいけど、爆発というものや人体に有害な廃棄物というものもうかべてしまうから、あまりいいものに思えない。
「星の命、使いすぎてません?」
私はまわりの明るさを見て言わせてもらった。
もう明るさに目は慣れた。
光の反射が強い白い壁だったのがよけいに眩しくさせていたようにも思う。
「これは微々たるものです。世界でどれだけ魔法が使われても、私の一生では星の命が枯渇できるほどの魔力供給はないと思われます。とはいえ、太陽のかわりになるように世界中で魔法を常に使い続ければ星の命が枯渇するのは目に見えて明らかなものとなります」
キースさんの言葉にお勉強するようにふむふむと頷く。
高校生の私がここにいなくてよかったようにも思う。
そのお話は少し難しい。
さすが研究者。
異世界なのにどこか理系だ。
「私たちは太陽となるものを探し出し、現在はそれを目覚めさせることに努めています」
ふむふむ。
太陽のかわりの天体を爆発させるつもりなんだろうか?
その天体が燃えている限りは太陽のかわりになるよね、たぶん。
「あなたに願いたいのは太陽を目覚めさせることへの協力です」
それを言われて私は顔をしかめる。
一瞬で意味がわからなくなった。
私なりの解釈をしながらお話を聞いていたせいかもしれない。
いや、確かに太陽をつくれるなら神様だと私も思うし、救世主って思うけど。
魔法も使えない私になにしろと?
「太陽がなければ世界は闇。魔法技術で闇を光照らしても、生き物の生態は変わっていくのです。草花は枯れ、大地は荒れ果て、風は淀み、水は凍る。それでも生きるために環境に適応するように変異していく。私のこの瞳のように」
キースさんは自分の目を指さして、私はキースさんのその猫の目のような瞳を見る。
「人間を襲うモンスターと化した獣が外にはいます。ここはこの国の城なので防御壁もしっかりしており、そういったものは決して近づくことはありませんが、世界が滅亡となるのは太陽を目覚めさせられない限りはいずれ起こりうること。人間という生き物も変異でなくなっていくかもしれない。なので、私たち研究者は太陽を目覚めさせる研究を続け、目覚めさせるための鍵となる者を異世界から召喚するようになったのです」
キースさんの目は本気で、とても冗談を言っているとは思えない。
思えないのだけど、ファンタジーがすぎて三十路の私のかたくなった頭ではすぐに受け入れられない。
そもそも異世界だとか召喚だとかも、まだ夢の中にいる……、死んだあとの世界のお話だと思ってる。
癖のように髪を引っ張ってみると頭皮が引っ張られて痛いから現実のようにも思うけど。
すべて現実で信じます!なんて純粋にはなれない。
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