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伝えたかった言葉がある。
手紙に書こうと思ったのに書いてない。
最後、どうしても書きたくて、でもペンを持つ手もなくて。
キースさんの姿を浮かべて。
本当の私の気持ち、強がったものばかりじゃない、ただ素直なたった一つの1番大きな気持ち、伝えたくて、伝えるすべはもうなくて。
ぼろぼろ涙をこぼしながら、その言葉を口にした。
「愛してる」
その言葉はなにかの魔法の言葉だったようで、私は意識を失いながら、すべてを思い出していた。
還る!
還りたい!
リアムのところに。
本当の私のところに。
リアム、私を呼べ!
呼ばなかったら一生呪ってやるっ!
ここにいるキースさんじゃなくて。
私のそばにずっといた、私の旦那様。
大好きな大好きな旦那様。
あなたのそばで生きる!
なんていう強い気持ち、抱けていたのか、本当はよくわからない。
目をあけると、私は地下室にいた。
薄く暗くした空間。
少し肌寒く感じる室温。
視界には大きな魔法石の塊が見えるから、ここが地下室なのはすぐにわかった。
ゆっくりと体を起こして、改めてまわりを確認すると。
棺。
棺桶の中に私は横になっていて、まわりにはリアムがおいたらしい花がたくさんある。
うぎゃあっと叫びそうになりながら、死体として焼かれたくないと棺から出ようとがんばったけど、体が思うように動かない。
生き返った。
生き返れた。
思うのに、リアムはいないし、誰もそばにいないし、ものすごく不安になる。
リアム、リアムと求めて、なんとか棺から出ると、ネグリジェのような死装束のような真っ白のワンピース姿で裸足で、地下室から出る。
私の妄想では私が生き返るまでそばにいてくれて、生き返ったら手を握って抱きしめてくれる、なんていう甘いものだというのに。
リアムの馬鹿。
王子様にちゃんとなってよーっ。
馴染みすぎて、こっちのリアムはキースさんより王子様じゃなくなってるしっ。
これ、完全に体力ないとわかる体を引きずるように、一生懸命動いて地下室を出ると眩しい。
見慣れた私の家がそこにあった。
リアムが王ちゃんからもらった豪華な家。
私とお母さんが無理を言ってこの家を残してもらった。
おとぎ話に出てきそうな綺麗な洋館。
年月たっても汚れない不思議な家。
帰ってこれたと深く安心して、リアムーと探そうとしたときに聞こえてきたのは、ドタバタとした騒がしい足音。
「こらっ、ヒナタっ!おとなしくしろっ!」
そんな大きなリアムの声と。
「いーやーだーっ!」
リアムをからかっているかのような子供の声。
あぁ、これだ。
帰ってきた!私の世界!
やったぜ!と自分の本当の偉業とも思えることに1人、感動していた。
まわり、ドタバタうるさいけど。
しゅるしゅるーっとなにかが床を滑る音がしたかと思うと、ころころ転がってきたのは王ちゃんだった。
どうやらリアムとヒナタと一緒に走り回って床を転がって滑ったらしい。
小さいから重量もなくてよく転がって廊下も広くて長いから長く滑る。
これを面白がっていたことも思い出して、ものすごくうれしい。
「王ちゃーん」
帰ってきたよーと王ちゃんに腕を伸ばして、抱っこしてもふもふしようとしたら、王ちゃんは大きな声で吠えた。
ロボちゃんとは違って、あまり鳴き声をあげない、むしろ、鳴き声を持ってないのではないかと思っていた王ちゃんが鳴いて、私はびっくりして止まる。
なにっ?私、不審者っ!?
しばらくいない間に忘れられたっ!?
あせる私の前には、王ちゃんの鳴き声を聞いたらしいリアムが走ってきて。
私をやっと見つけてくれて。
遅い!と言いたくなる抱擁をくれた。
「エレナ、おかえり」
ぎゅうっと苦しいくらい抱きしめて、愛情いっぱいこめて、頭を撫で撫でしてくれる。
これこれと、少し怒ったけど私はリアムのお迎えに満足。
ついさっき、私は死ぬかと思っていて。
二度と会えないと思っていた人は、私の記憶の中ではずっとそばにいた旦那様。
会えなくなると淋しくなる気持ちを深く感じた。
記憶を消されて死ぬこと、すごく不安だった。
でもそれまでの人生、リアムのお陰で楽しく生きられたから、リアムを助けるためと思って受け入れた。
ただ、私の人生、リアムの記憶をなくしてしまうと、本当になんにもなくて。
リアムと出会ったときまで遡ってしまって、覚えてない人生はキースさんがエレナから聞いたらしい社畜人生に塗り替えられていた。
本気、なんなの、私の人生ってくらいのものをいただけた。
でもきっとリアムがいなかったら、私の人生はあれだった。
勉強できるほうでもないし。
社畜やってるくらいがお似合いさと自分で自分の人生を決めたようにも今なら思う。
どっちが先か、なんてわからないけど。
リアムのそばにいる人生、戻ってこれた。
本当に本当によかった。
思い出せてよかった。
「ただいま、リアム」
きゅっと抱きついて、私の素敵な有能イケメン旦那様とキス…なんて、らぶらぶいちゃいちゃしようとしたら。
どすっ!と私の足に突進してきたもの。
ぎゅうっと痛いくらいに足にしがみついてくる。
加減してほしい。
痛い。
「おかえりっ!ママっ!」
顔をあげて私をきらきらした無邪気な瞳で見上げてくる元気な息子。
名前はヒナタ。
5歳。
いたずらしまくりの、やんちゃ坊主である。
でも可愛い。
リアムの子供の頃によく似ていて、将来はきっとイケメンになる。
「ヒナターっ!」
私は屈んでヒナタを抱きしめて、帰ってきたよーと、帰ってこれたよーと、この生き返れたことの喜びを胸いっぱいに感じる。
私の人生、これだ。
リアムがいて、私が産んだ可愛い息子がいる。
可愛いやんちゃ坊主と頭をぶつけあって絡んで、きゃっきゃっ笑いあう。
「放っておいても帰ってきたし、俺がなにかする必要なかったかもしれないよな」
ヒナタと喜びをわかちあっていたら、頭上でリアムがぼそりとなにか言ってくれる。
とてもとても聞き捨てならない。
「還る体必要だったし!普通なら死んだら焼かれちゃうし!時間たったら体腐っちゃうし!」
全部、リアムがここにいたから、私の体がここにある。
「で、私、どれくらい死んじゃってたの?」
「いや。正確には脳死状態になってた。心臓は動いているけど脳が活動していない。だから死と言えるのか謎。俺の世界では脳死はないから余計に」
「ないの?なんで?」
「腕がよければ治せるから。基本的には病死は少ない。老化もある程度なら薬でとめられるし、あっちの世界の技術はこっちの世界では不老長寿かもな」
初耳だ。
いつかリアムを吸血鬼と思ったことを思い出す。
その人間では有り得ない力やよすぎる頭は化け物。
見た目もまだまだ若くてイケメンで化け物。
「人間じゃないと思うの」
「人間だっ」
リアムはそれだけは譲れないとして強く言ってくれる。
人間であることに誇りを持っているらしい。
新種の人類ではあるのかもしれない。
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