after glow

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リアムに魔法で弱っていた体を治療してもらうと、即元気になれた。 魔法、最強、チート。 とは思うけど、それはリアムだからできるというところも多いらしい。 私の旦那様、最強賢者。 この世界でも数々の分野で賞を受賞する有名発明家兼科学者。 ただしその研究所となるこの家、ラボには弟子となる人もいない、誘われる学会のようなものには一切出席しない、人づきあいが嫌いと言われているイケメン科学者。 ……人づきあいは嫌いだと思う。 愛想がいい人というわけではない。 興味のないことには、さらっとしすぎなくらい目も向けることがない。 ただ大学の教授を弟子のように使っていたくらい、その知識の差がありすぎてこの世界の他の研究者たちと意見を交わすなんてリアムには意味がないのはわかる。 でも栄誉ある受賞式くらいは出席しようよと嫁は思ってる。 おいしいもの食べてきてと私が代理で行かされる。 なにを聞かれても代理なのでわかりませんで通すのもどうなんだとリアムに思う。 思うけど、私にはその賞についてのお話なんてできるはずもない。 それを狙って代理にさせられる私は鬼畜社長についてる社畜かもしれない。 やんちゃ盛りのヒナタの子守りでリアムは大変だったようで、私が生き返ってもヒナタの子守りをしてくれる人が生き返ってくれた、となって、らぶらぶーともいかない。 お母さんにただいまーと言っても、リアムがいるからきっと大丈夫と信じられていたみたいで、そこまで泣いて喜んでくれなかった。 薄情な家族だ…なんて思いながら、帰ってこれたことに深く喜ぶ。 これから先の平穏な生活を考えていたのに。 夜、ヒナタを寝かしつけて、さて就寝と2人のベッドルームにいくと。 「エレナ、今度は俺が消えるかもしれないから、その覚悟はしておいて」 などとリアムに言われた。 「どういうことっ!?」 「いや、俺のやるべきことは終わったし。時空を転移したツケがいつ回ってくるかわからない。時空転移はクリスティアの研究で俺はまったくふれたこともないから、なにが起こるか…」 「リアムにもわからないって、なにっ?王子様がわかるなら、王子様に聞きにいったらよくないっ?行けないなら王ちゃんに手紙書く」 ハゲたイケメン王様だったんだなと改めてその食事を送っていた相手の顔をわかりながら、手紙を書くことを考えて。 ん?と、そこにある矛盾に当たる。 「ねぇ、リアム」 「ん?」 「私が手紙を送った相手って、今どこにいるの?どこの王ちゃん?」 私が会った王ちゃんじゃない。 あの王様は私のことを知らなかった。 歪められた時間、未来にいる人ということになる。 「クリスティアに時空転移という荒業を教えたのはもしかしたら俺かエレナになる?」 リアムも今更のようにそこにいき当たったらしい。 わかっていたら。 私がベルソレイユを目覚めさせたあと、すぐにでも教えてくれていれば。 あんなに悲しい思いはしなくてすんだのにっ! 「なんで未来がわかるのに、そっちのほうに声をかけてくれなかったのっ!?」 「エレナも違うことするとあっちの世界が滅ぶかもしれないって言っただろっ。あと、俺はここから先はわからないっ!今の俺は記憶を消されてなんにもやる気なくて、ぼーっとしてるばっかりだよっ」 「意味わかんなくなるからっ。記憶を消されたリアムは22のキースさんでよくない?」 「俺だよ。俺が生きた道。なんで俺とあの頃の俺が別人になる?」 「だってリアムはここにいるのに、もう1人リアムがいることになって意味わかんないじゃない。というか、そのリアムにエレナは生きてるよーって教えてあげられないのかな?」 「……たぶん、きっと、エレナという言葉が俺の記憶を復活させる呪文になっていて。どこか故意的にそれを使うときをはかられていたようにも思うから……、知っていても誰も教えなかった、としか俺は思えない」 リアムはリアムが生きてきた道を思い出すように話してくれる。 意地悪だ。 だけど、今までのリアムの人生を狂わせたら、本当に私のそばにいたリアムが消えてしまいそうで、うーんと考えてしまう。 1番安泰が、リアムにはぼーっとした毎日を送ってもらって、その間に王子様に時空転移の魔法を研究してもらう、ということになる。 歴史を歪めない。 これ、安泰。 「俺がなにもしなくても、たぶんきっと道は変わらず続くんだろう。未来の王なら未来がどうなっているのか、もう本当はわかっている話かもしれない。俺がここにきて14年もたってる。わからないはずがない」 リアムはベッドに転がる王ちゃんを見る。 私も王ちゃんを見て、そこに私とリアムの未来がどうなっているのか知っている人がいると思うと、どうしても聞いてみたくなる。 そのとおりに動こうとすればいいのか、違う道になるように動いたほうがいいのか。 1番はあの敵意だらけの王子様が時空転移なんていう魔法を使ってリアムを私のところへ送ってくれたのはなぜか、が、すごーく気になる。 なにもしないでなにも言わないでその未来にたどり着けるのか、私にはわからない。 未来の欠片を知ってるのは、行動を妨げるものだと思う。 「リアムはどうしたらいいと思う?王子様は時空転移の魔法をなにも言わなくてもリアムのために考えてくれると思う?」 「……ない。クリスティアが研究してることがおかしなことでもあったから。クリスティアはエレナと同じで勉強嫌い」 「私と同じにしちゃうのはどうなのかなっ?」 「エレナも勉強嫌いだったから間違ってはいないだろ?」 嫌いだったけど。 なんで私にはわからないのに、リアムはすぐに理解してすらすら問題を解いていくのかっていうくらいだったけど。 リアムが勉強するなら、私、別に頭悪くてもいいか、なんて思っちゃった、のは、もしかしたら王子様と重なっているのかもしれない。 もしも王子様と私が同じ考え方を少しでもするのなら。 将来王様になるのはリアムに任せちゃおう、だったと思われる。 ……恋愛じゃなく。 奪われたら困る、は、王子様に確実にあったように思う。 親友。嫉妬。 人生は恋愛だけがすべてじゃない。 「あのね、リアム」 もしかしたら今の王子様はリアムを求めてるかもしれない。 私の考え方であってるかはわからないけど、王子様は王女様になってもいいからリアムと結婚してリアムに王様になって欲しくて、私がいるのがひどく邪魔に思ったのかもしれない。 小さい頃から一緒にいて、ずっとそのつもりでいたのに、いきなり知らない人に奪われたら困る。 そんなことを話そうとしたら。 「俺に時空転移の魔法の研究しろって言われても無理だからな?俺はできない。たとえ原理がわかっても、それを使うための才能がもとからなければできない。勉強と同じ。頭で理解しても開かせることができなければ実験もできない」 そこまでは考えていなかったという話をされた。 更にはなにを言いたいのか私の小さな脳みそでは理解できない。 「わかりません、キース先生」 「懐かしいな、それ」 「私にとってはつい昨日のこと」 ここにいるリアムじゃない、若いリアムとらぶらぶいちゃいちゃしてた。 可愛かった、あのリアム。 王子様だった。 あれになってほしいようにも思うけど、ここにいるリアムはさすがにあれには戻りそうにない。 パパで旦那様で私のお母さんも含めて面倒をみてくれる大黒柱。 中身はきっと立派におじさん。 「俺が料理できないのと同じ。包丁の握り方はわかるし、こうという最終的な目的の形もわかっているのに、俺が野菜を刻むとなぜかボロボロになる」 リアムは言い直してくれる。 あー、と、リアムに料理を教えてみたときを思い出す。 人参を輪切りにしてほしいのに乱切り。 皮を剥かせたらピーラーでなにした?という細切れができた。 味付けだけやってもらおうとしたら、だぷっと調味料入れてくれて。 得体の知れないものを作り出す料理音痴を目の当たりにした。 「本当にできないよね、リアム。ちゃんと教えてるのに、洗濯物干すこともできないし」 シワを伸ばしてーとすると、服を伸ばしてくれる。 ハンガーにかけてーとすると、絡ませてくれる。 なにをどうやったらそうなるのか私のほうが理解できないことをしてくださる。 そればかりはリアムにもどうしようもないことのようで、少し拗ねたようにリアムは私から視線を逸らす。 リアムの手先の不器用さは人並み以上があると思う。 服のボタンもうまくとめられなかったりする。 お箸で食べるけど、お箸の持ち方はいつまでたっても子供のように握る。 ヒナタに教える時に同じように教えてみても、ヒナタのほうが上手なくらい。 私にはそんなリアムが可愛いんだけど。 22のキースさんも可愛かったけど。 なんでも完璧な人より、不器用でいい。 私でも隣にいていいと思えるから。 リアムのできないこと、少しならできるし。 たとえでなんとなくわかった。 王子様には簡単にできちゃうかもしれないこと。 王子様にしかできないこと。 才能。 どれだけやってもできないこともある。 「じゃ、王子様に研究頼んで」 「エレナ。無理」 「なんでっ!?」 「門があるから未来の王と言葉を交わしているけど、現在のあっちの世界と交信する技がない」 「あるっ!召喚っ」 即答で言ったら、リアムは思いがけないことを言われたみたいな顔を見せる。 リアムはまったく使わない魔法になってるけど、キースさんは使っていた。 食事を異世界から召喚。 覗き見も可能。 「……やってみる」 リアムは言ってくれて、私の案が通ったことに私が喜ぶ。 ただ…、もしも王子様がやることになっても、王子様が交換条件に求めそうなものが浮かぶ。 いつか聞いた私の見たこともない娘が欲しいでもなく。 リアムに王様を継いでもらうこと。 いなくなる、は、大きく見るとそれもあてはまりそうで、本当にありそうで不安になる。
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