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 目的地に着くと、車を停める場所がアパート附近にないので昇はBMWを停めた後、篠つく雨の中を駆け抜けなければならなかった。アパートの階段を駆け上がる時も踊り場に立った時も横殴りの雨が庇を無用の長物にしていた。だから玄関の前に来た時も昇は横殴りの雨に打たれ、頭髪と言わずタンガリーシャツと言わず全身が濡れ鼠のようにべとべとになっていた。 「ピンポーン!」 「は~い!」  圭子は返事をして玄関に行くと、ドアスコープを覗き込むなり叫んだ。 「今は駄目!」 「えっ、何で?」 「何でって決まってるじゃない!コロナよ!」 「俺は大丈夫だよ!」 「本人が大丈夫だと思っててもウィルスが靴底に付着してないとも限らないわ!」 「そ、そうか・・・しかし、折角来たのに・・・」 「駄目なもんわ駄目!絶対駄目!」 「そ、そうか、仕方ない・・・」と昇が言って項垂れると、圭子はすまなそうに言った。 「ごめんなさい。怒鳴ったりして・・・」 「いいんだ。圭子の言う通りだ。俺が間抜けだったんだ。」 「くれぐれも風邪ひかないようにね。」 「ああ・・・」  昇は猶も横殴りの雨に打たれながら玄関をとぼとぼと離れて行く時、少年の頃の記憶がフラッシュバックした。小学二年生になって間もない或る日曜日の朝、幼馴染であり大の仲良しであった、せっちゃんの一家が九州へ引っ越してしまった時のことを・・・今の自分の心境と当時の心境が横殴りの雨によってオーバーラップしたのだ。
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