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離愁の前日は土曜日だったので授業は半日で終わった。
当然、昇はせっちゃん一家が日曜日の朝にA町を発つ事をせっちゃんから聞かされて知っていたので昼からA南小学校でせっちゃん姉妹と弟の博之と四人でせっちゃん姉妹との最後のお遊びをする事にした。それで遊んでいる内にせっちゃんの妹が博之に抱き付いてワンワン泣き出してしまい、抱き付かれた博之が笑って慰めるも昇とせっちゃんはほろりとして貰い泣きしてしまった。けれども、気を取り直して遊んでいる内に四人はいつの間にか遊びに夢中になり、いつものように楽しく遊んで、いつものようにあっという間に日が暮れた。
そうして恰も明日からも共に遊べるかのように兄弟と姉妹はお互いに夕映えした明るい表情で、「バイバイ!」と言い合って別れた。
アパートに帰ってから大のテレビっ子だった昇と博之は、いつものようにテレビに釘付けになり、当時の子供の御多分に漏れず、六時半から「タイムボカン」を見て七時から「まんが日本昔話」を見て七時半から「巨泉のクイズダービー」を見て八時から「8時だヨ!全員集合」を見て九時から「Gメン75」を見て、そして十時から布団を敷いて寝床の中で「ウイークエンダー」を見ながらうとうとし出し、遊び疲れた心地良さに幻惑され、いつものように「明日は楽しい日曜日」と思いながら「明日は悲しい別れの日」である事をすっかり忘れてぐっすり寝た。
果たせる哉、翌朝、昇は博之と共にいつもの日曜日のように寝坊してしまい、「あっ!そうだ!」とやっと気づいて慌てて顔を洗って突っ掛けを履いてパジャマ姿の儘、雨を突っ切ってせっちゃんの住むアパートの部屋の玄関前に駆け付けた時にはドアに鍵が掛かっていて表札が無くなっていた。せっちゃん一家は疾うにA町を発っていたのである。
昇はこの時の虚しさと言ったら無かった。お別れの言葉だけでも言いたかったのにと心底、寝坊した事を後悔し、蛻の殻と化したアパートの部屋の玄関前に立ち尽くし、横殴りの雨にしっぽりと濡れながら涙に暮れるのだった。
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