森で

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森で

 ビルハートの森は薄暗い。 「道理で陰険なエルフが好む場所なわけだ」  ギリアスは部下の前で嘲ってみせた。兵に案内され、死体の場所に辿り着いた。パラパラとあちこちに倒れているのが確認できる。ギリアスは馬を降り、自分で死体を調べてみた。 「矢で射抜かれてる。エルフの仕業で間違いない」  慎重に死体を調べていると、背後から急に声をかけられた。 「いや、違うよ、兄さん」  ギリアスは振り返って剣を引き抜いた。しかしその顔を見て肩をすくめた。 「何だリアム、こんなところで」  言葉とは裏腹に、ギリアスはリアムの意図が分かっている。大抵エルフとのいざこざは大きくなる前にリアムが現場に現れては収拾をつけていた。 「兄さん、これはエルフの仕業じゃない」 「何だお前、今度はそんな手で場を収めようってのか?」  何度もあの手この手で兵を退かされてきたので、ギリアスは飽き飽きしていた。 「兄さん、今度のはそんなんじゃないよ。父さんが言ってたことが現実になったんだ。その矢はエルフのものじゃない。オークのものだ」  ギリアスは一瞬強張ったものの、すぐさまもとの顔の戻り、呆れたと言わんばかりに首を振った。 「オークの連中は瓦解した。もうハイブルテンに侵入する力は残ってない。……この死体は密売人どもだ。きっと闇取引をしようとして殺されたんだろう。それにだ、リアム。仮にもしオークが攻めてきても俺たちは抵抗することができる。何にも心配はない」 「ギリアス兄さん、父さんの遺言を思い出して……」 皆まで言う前にギリアスは兵に回れ右を命じ、森を引き返した。 「今回の死体は売人だ。エルフどもがこの辺をうろついてんのは事実だし癪だが、今回は見逃してやるよ」  ギリアスは兵を率いて帰って行った。 「相変わらずだな」  今度はリアムが急に声をかけられ驚いた。上を見上げると、木の枝の上にポツポツとエルフたちが姿を現した。 「ヒール兄さん」  もう1人の兄の姿に安堵するとと共にリアムはヒールに声をかけた。 「オークの話は本当か。詳しく聞かせてくれ」  ギリアスとは真逆に、ヒールは聞く耳を持っているらしい。リアムは自分が収集した情報を伝えた。  聞き終えると、ヒールは憐れんだ調子で口を開いた。 「ふっ、愚かな人間の王だな。では私たちは至急、やつらの侵略に備えさせてもらう」  ヒールはさっさと(きびす)を返した。 「兄さん待ってよ! それじゃギリアス兄さんと同じだよ。みんなで手を取り合って……」  ヒールは足を止めて振り返った。 「我々の備えは万全だ。敵を退ける力がある。愚かな人間とわざわざ協力する必要はない」  それだけ言うとヒールはエルフたちを従えぞろぞろと引き揚げて行った。
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