危急

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危急

 そこからは激動だった。オークはギルデロイ王に打ち破られてから数十年、人知れず力を着々と回復し、アンデッドやゴブリンとも同盟を組み、王国に押し寄せていた。発見が遅れたのはひとえに王国の内紛のせいである。  オークは難なく人間の国境を侵し、人間は敗戦を重ね、ギリアスはペトリャスクを砦に最後の決戦に臨もうとしていた。  宮殿の王室に、ギリアスは立ち尽くしていた。父の今際を思い出す。 『再び危急が訪れたとき、結束して事に当たらねば、たちまち王国は崩壊するぞ』  本当は常に懸念していたことだ。しかしギリアスのプライドのせいでここまで追い込まれてしまった。死んだ者たちへ申し訳が立たない。 「ギリアス様」  ハリスが声をかけた。 「まだ援軍を求めるつもりはございませんか」  ギリアスはその言葉に胸が痛む。オークに攻め込まれてから何度もそうハリスに進言されていた。 「もう間に合わん。それに、ヒールもリアムも攻め込まれているのだろう」  大戦が始まったあと、ギリアスは万が一のことも考え、エルフの国へも偵察を出していた。それによると、オークは王国へ三方向からの同時攻撃をしかけたということだった。そんな状況で到底援軍など望めるはずもない。 「すまない、父上」  ギリアスは詫びた。 「俺が愚鈍なばかりに。ヒールの言う通り愚かな王です」  言い終わるとギリアスは癇癪を起こし、家具を切りつけて回った。 「落ち着いてください、ギリアス様!」  乱心のギリアスを見て、ハリスは慌てて(いさ)めた。ギリアスは肩で息をしていた。 「なあ、爺。覚えているか? 5年前、オークの一部がエルフの国に侵入した時のことを。俺はあの混乱に乗じて何をした? 手を貸すどころか俺たちもエルフの国に侵入したんだ」  事実だった。幸いオークの集団は小規模で事なきを得たが、一生消えぬわだかまりを作ってしまった。  自分の卑劣さと今の惨状を憂い、ギリアスは生まれて初めて泣いた。 「……実は父上が亡くなった時のこと、まだお話していないことがあります」  ギリアスはくしゃくしゃになった顔を上げた。ハリスはゆっくりと口を開けた。 「リアム様のことです」
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