空気

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 白いテーブルクロス。オレンジ色の控え目な明り。  窓の外には夜景が広がっている。  さっきまでここには、完璧な焼き具合のステーキが乗せられた高価な食器があった。  食べ終えたそれは下げられ、代わりに今は可愛らしいデザートの乗った皿が置かれている。  そんなテーブルを挟んだ向かいの席に座っているのは津川千恵美だ。  彼女は僕の幼馴染だ。  残念ながら恋人ではない。  彼女に想いを告げられた時には、すでに恋人が僕の隣にはいた。結婚の話も進んでいた。  だからきちんと断った。 「じゃあさ、最後に食事に付き合ってよ」  彼女にそう言われ、僕は断り切れなかった。それまで仲良くやってきた相手の最後のお願いを無碍にするほど心が強くなかったのだ。 「店は私に任せてね」  そう言った彼女が手配したのがこの店だった。
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