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俯瞰
終わった。
学校を狂った喜びで包んだ文化祭が終わった。
後は、文化祭の残りカスを集めて、供養するキャンプファイアーのみ。
「む。学校でやるのに、キャンプファイヤー っておかしくない?あれ?キャンプファイアーだっけか。違う。スクールファイアーだ。」
「スクールファイアーだと、学校を燃やすように聞こえるな。でも、キャンプファイアーはキャンプ場を燃やさないか。なら、スクールファイアーだな。」
なんてことを言いながら、灰色の脳細胞を無駄遣いしつつ、文芸部を後にする。文芸部を前にするには、スクールファイアーはあまりに魅力的すぎる。ストーブで温まった部屋であってもだ。
「今年は去年より3人増えたぞ。」
ストーブの火を確認し、年季の入った鍵で部屋の鍵をかける。
「去年は5人だったじゃないか。同人誌を買ったの。」
「このままじゃ、文芸部は文字通り廃部だからな。部を廃すってな。」
「笑えない冗談だよ。でも、僕たちで作った文芸部が、僕たちで終わりってのもいいんじゃない。」
「いいわけ無いだろ。顧問になってくれる先生を探して、空気でいいからって部員集めて、ようやく2年ぶりに復活したってのに。」
「まぁね。でも、同人誌買ったのほぼ同級生じゃない。」
「たしかになぁ。何かしらの対策が必要かもな。それにしても寒ぃな。今日は。最低13℃だっけか」
「8℃らしいよ。寒波が近づいてんだってさ。」
「なるほどなぁ。徐々に夜の帳が降りつつあるからなぁ。もっと下がるんじゃないか。」
そう言って、白い息を吐き体を縮こませる。グラウンドからは、文化祭の終幕を祝う歓喜の声が聞こえる。着火を待ちきれない想いが、グラウンドを溢れ心を侵食する。
「今年は、キャンプファイアーもとい、スクールファイアーを何処から見るつもり。」
「去年は、スクールファイアーを部室で見てたからな。あれ程、寂しい想いは無い。」
「もっと、売れると思ってたからね。最後まで粘ろうって、待ってたっけなぁ。」
「どうせ寂しいなら、せめて最後はしゃんと終わらせなきゃなぁ。屋上はどうだ?」
「いいねぇ。」
これはあまり知られていないことだが、屋上の鍵は立て付けが悪く、ちょっと捻れば開くようになっているのだ。
「もう少しで着火の時間だな。少し急ぐか。」
「うん。」
日が傾き、少し伸びた気がする廊下を急ぎ、階段を一段とばしで駆け上がる。
「10、9、8…」
「おいおい、カウントダウン始まってるよ。」
「着火の瞬間は難しそうじゃない?」
「かもな。着火だけは、そこから見るか。」
近くの教室に入り、窓からグラウンドを除く。
「3、2、1、0」
オーディエンスのカウントダウンに合わせ、着火剤に火が付けられる。文化祭を彩った色とりどりの文字を真っ黒に炎は焦がす。
「奢れる人も久からず、ただ秋の夜の夢の如しってなぁ」
「よっちゃん。うまいこと言うねぇ。ただ風の前の塵に同じってね。」
「あれだけ、文化祭の主役ヅラでいたのになぁ。」
よっちゃんの顔を、朱に炎が照らす。光を反射させ、グラウンドもまた朱に染まる。
「このまま、ぼぉっと見てるのも悪かねえな。」
よっちゃんの目は、屋上に向いていた。
「たしかにそうかもねぇ。しばらくしたら、僕たちもグラウンドに混ざろうか。」
光は波であるという。
朱の光で満ち、発散し、揺蕩う空気の中、僕たちは屋上の二人に思いを馳せた。
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