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表 二日目
そういった経緯で、僕は今ここにいるわけだ。
正直、あれからの思い出がない。部屋で送った恥ずかしいメールも、布団にこもって叫んだことも、それを親に怒られたことも記憶にない。既読がついて、
「分かった。」
とだけ送られてきたのも、覚えていない。
嘘だ。
何度だって、メールの文面を見た。「分かった。」以外の文字が浮かんでこないか待った。一体、あの人は何を決心したのだろうか。
時計は、18時45分を指す。そういえば、この時計も親に言われるがままこれにしたんだっけな。
昔から、わがままを言わない子であったと自分でも思う。欲しい時計があった訳ではない。親がこれにしたらといった物。あるいは、値段を見て選んでいた。
自分を押し通すのは、だめなんだと思っていた。
結果、僕は人を頼れなくなっていた。人に自分の弱さを見せれなくなっていた。次第に周りの求める自分であろうとしていた。辛いと思う自分の声に蓋をした。
時計は50分を指す。
10分。
すっかり、あたりは暗くなり、空には瞬く星々と静寂。グラウンドの白熱電球。そして、フィナーレに湧く。
去年は、あそこにいたのだ。離れた場所で、あの子を見ていたのだ。
5分。
扉の軋む音。立て付けが悪く、錆が擦れ合う嫌な音が響く。
控えめにゆっくりと開けられた扉。
黒い長髪。セーラー服と紺のハイソックス。青の似合う少女。
ゴム底のスリッパでは、足音は立たない。
心音。
寒さは振動を奪う。
始まったカウントダウン。
近づく距離。
扉の閉まる音。
右側を照らされた少女。
口から漏れた言葉。握られた空の缶コーヒー。
「xKfyejqmbshHnfhf」
頭で理解はできない。だが、一年半何度も反芻した言葉。
笑う少女。
「こちらこそ。これから、よろしくお願いします。」
終わるカウントダウン。聞こえる歓声。
白いコンクリートを染め上げる朱の光
熱を奪う3℃の天使
屋上に立つ二人
一人の勇気と一人の慈愛
重なる二組の唇
揺れるスカート
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