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玩具屋
あなた。そう、そこのあなた。お若いかたがこんな辺鄙な所にいったい何の御用で。
へぇ、ご自身のルーツをたどっていると。お若いのにご立派ですね。
少し時間があるようでしたら、この爺の語りに付き合ってはくれませんかな。
この町がまだ賑やかだった時の話ですがね。
もう今は閉店しておりますが――そこのお店は昔、玩具屋でしてね。
三畳ほどのただでさえ狭い店内に所狭しと玩具を積み重ねていたようで、箱は凹みや潰れが目立ち、とても新品には思えません。
物が多いから埃っぽく、空気も悪い。
そのようなお店でありますから、まずお客はおりません。
さらに店主は頭頂部の毛が無い蓬髪でしたから、ひどいもので『あそこの店には落ち武者の幽霊が出るぞ』と、誰も気味悪がって近づこうともしません。
そんな状態ですから、まぁ赤字が続きます。店主の借金は嵩みます。
何とか経営を続けようと、のぼりを立て、店の前で呼び込みをします。
そうしますと『落ち武者が呼び込みをしている』と、さらに気味悪がられて目を合わせてもくれません。みんな足早に通り過ぎてしまいます。
だからまた借金が嵩みます。
経営を続けたくとも売上は上がらない、借金は増え続ける。
やはり、夜逃げしましてね。もう五十年近く経つのですが、結局店主は見つからず。あの時すでにお年を召された方でしたから、もう亡くなっているでしょうね――。
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