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だから今日は本当に久しぶりの客だった。
最近始めた呼び込みが効いたのかもしれない。
あの女の子は我が子と同じくらいの年だろうか。
優しそうな子だ。きっとあの人形を可愛がってくれるだろう。
それから一年ほど経ったと思う。あの後一人も来店していない。
玩具屋だけでは生活できないと思い――今さらだが紙芝居屋を始めた。
一日二回、週に三日、公園でお菓子や小さな玩具を売りながら子ども達に紙芝居を読み聞かせる。
そんなに稼げるわけではないが、少しは生活の足しになる。
今日も紙芝居を読み聞かせていた。
その時――
あれはあの子だ――。
間違いない。女の子が自分とそっくりな黒髪長髪の人形を大事そうに抱えている。
いや、確かに女の子が人形を抱えているのだが――まるで人形が女の子を支配しているような、そんな違和感が胸に混沌と湧いた。
それに、以前とは別人のようだ。活発そうな印象が無くなっている。
目が虚ろだ。
少し離れた所でその女の子が私を見る。
紙芝居を読み終えると、子ども達は実に楽しそうな笑みを湛えながら、また来るね――と帰ってゆく。
しかしその女の子は、寒気をおぼえる作り笑顔を浮かべ、こちらへゆっくりと向かってきた。
「おじさん、玩具屋さんよね」
私はこの女の子に対する、恐怖のような、憎悪のような、なんとも形容しがたい感情を悟られないように、あえて抑揚をつけずに話した。
「そうだよ。君はずっと前にその人形を買ってくれた子だね。大切にしてくれているようで、嬉しいよ」
「アタシ、おじさんのお店に用があるの。今からお店に戻るんでしょ? アタシも一緒に行くわ」
不気味な顔のまま、女の子は後をついてきた。
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