隠れん坊

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 母親が朝起きると、いつもとなりに寝ているミサの姿がなかった。トイレにでも行っているのだろうと思い、五分ほど待ってみたが帰ってこない。仕方なくトイレまで行くと、扉は閉まっていた。ミサは扉を閉めて用を足すことを怖がり、いつも開けたままにする。  もしかして夜中のうちに誰かにさらわれたのか――。  嫌な考えが頭を()ぎる。名前を呼びながら部屋中を捜す。部屋中といっても風呂なしの六畳一間、物の少ない家だから捜す場所は限られている。 ――隠れん坊しているの。  洋服タンスを開けたとき、(うつ)ろな目をしたミサがそう囁いた。 ――見つかっちゃうから話しかけないで。  熱でもあるのか。熱に浮かされているのか。それならすぐにでも病院で診てもらわなければ――。引きずり出そうと腕を引っ張った。ビクともしない。  その力は、平均的な成人男性のそれよりも強く感じられる程だった。 「つまらない」  ミサの虚ろな目がまるで別人のように鋭いものへと変貌した。 「ママのせい。見つかっちゃったじゃない」  振り向くと、捨てたと思っていたあの人形が――ミサにそっくりなあの人形が――風もない室内で髪をそよがせていた。
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