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――赤ちゃんができたみたい。
明子からそう聞かされた私は、口よりも先に手を出した。
明子は顔を腫らしながらもお腹だけは懸命にかばっていた。
その姿が私をさらに苛立たせた。
日に日にエスカレートする暴力に子どもの危険を感じ、或る晩、家に帰ると明子はいなくなっていた。
――今さら大切に思っても、もう遅すぎる。
今度は吸った息を少しの間、止めた。
それから三体の人形を大切にするようになった。
男の子が好みそうな玩具を主に取り扱っているから、店内に人形はこの三体だけだった。
この人形に明子と、見たことのない我が子を重ねていたのかもしれない。
そのうちの一体が今日、もらわれていったのだ。
娘が嫁いでいくときはこんな感情なのだろうか。
――哀しいのは私のほうだな、やっぱり。
人形は外を見つめるばかりである。
明子に出て行かれてからの生活はさらに不摂生になった。そのせいか、寂しくなり始めていた頭が見る見るうちに禿頭になった。その頃からである。落ち武者と呼称され、ただでさえまばらだった客がパタリと途絶えた。
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