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それぞれの卒業
卒業式が終わった。
あっという間に過ぎた3年間だった。
陸は、背筋を伸ばす。
今日を最後に、この校舎を訪れることはなくなる。無事にK大学へ合格した陸は、その報告にやってきたのだ。
幼馴染の佑は、いきなり料理人になると宣言して、調理師専門学校へ進むらしい。
佑の彼氏である東野院真矢は、猛勉強の末に、H大学の教育学部への進学を決めた。小学校教員を目指しているそうだ。
2人はなんだかんだと喧嘩もしつつ、常に一緒にいて、幸せそうだ。微笑ましいけれど、少し羨ましくも感じてしまう。
聡一が同じ歳だったら、俺たちもあんな風に、側にいることが出来ただろうか?
詮ない想像を振り払う様に軽く頭を振って、陸は職員室の扉を叩いた。
その夜、陸は聡一と会う約束をしていた。
初めて訪れた聡一の部屋は、広めの1DKの間取りで、無駄な物が見当たらず、綺麗に整頓されていた。
「おめでとう」
もう何度目かも分からない、祝福の言葉を贈られて、陸は擽ったくなる。
「聡一、俺、卒業したよ」
「そうだな……」
「ばか、なんで聡一が泣くんだよ……」
「泣いてない、でも感動してる。やっと陸に触れられる……」
聡一はそう言って、陸の唇に優しく触れた。
初めて交わしたキスは、一瞬触れただけで、すぐに離れてしまう。陸はそれを寂しく感じる。
「そんな顔するなよ、抑えが効かなくなりそうだ」
聡一はそんな事を言いながら、そのポケットから何かを取り出して、陸の掌に握らせた。
「卒業と大学合格のお祝い」
陸は、手のひらの上で銀色に光るそれを見つめた。
聡一の部屋の鍵だった。
「それから、コレは俺の希望なんだが……」
そう言って渡されたのは小さな箱で、中にはお揃い指輪が入っていた。
「ずっと側にいて欲しい。誰よりも近くにいて欲しい。陸、愛してる……」
涙を零す陸を、聡一は優しく、蕩かすように抱いた。
陸は、意識を失うまで聡一に愛されて、心から安堵した。
抱き合う様にして眠る2人の左手の薬指には、お揃いのプラチナリングが嵌められていた。
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