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甘くてしょっぱい、初めてのキス
「これ、誕生日プレゼント……、真矢、おめでとう!来年はもっといいやつプレゼントするから!!」
夕焼けに照らされて赤く染まった校門前で、佑から緑の袋を手渡された。赤いリボンをほどいてみると、袋の中からふんわりといい匂いがした。バターとチョコの甘い匂い。真矢が袋を覗き込むと、1人では食べ切れないほど沢山のチョコチップクッキーが入っていた。
「……ありがとう」
そう言って、真矢はクッキーを1枚取り出した。歪な形のクッキーは市販品には見えなくて、サクッと齧ると、香ばしくて甘くて、真矢は勝手に溢れ出した涙を止めることが出来なくなった。
佑はびっくりして、慌てて部活用の鞄からタオルを引っ張り出して真矢の顔に押し付けた。
「な、泣くほど不味かったのか?真矢、それともなんかあったのか?……とりあえず、泣き止めよ。
なぁ、真矢、俺はお前に泣かれるとどうしていいか分からなくなっちまう。だから泣き止んで?」
必死に言い募る佑に、ますます感情が昂ってしまう。
真矢は佑の匂いのするタオルを握りしめて、泣き顔を隠して、涙を止めようと小さく浅い呼吸を繰り返した。しばらく経ってから、ようやく真矢の涙も止まって、佑はほっと息を吐いた。
「……泣いたりしてごめん。でも嬉しくて、嬉しすぎて涙が出たんだ。……だから大丈夫だよ、佑。ありがとう。こんな嬉しい誕生日プレゼントは初めてなんだ。大事に食べるよ」
涙の止まった真矢が、目元を赤く染めて、笑顔を見せる。その笑顔があんまり綺麗だったから、佑は衝動的に動いてしまった。
唇に柔らかい感触、乾いていてちょっとだけカサついていて、それからぬるりと一瞬だけ暖かい感触に唇を舐められて、離れていった。
「甘くてしょっぱい」
佑の漏らした感想が、呆然と立ち尽くす真矢にも辛うじて聞こえた。
「…………っ!?」
何か言おうとするのに、言葉にならない。真矢は真っ赤になって、蹲ってしまった。
それから、何を話したのか、どうやって部屋に帰ってきたのか、真矢の記憶はひどく曖昧だった。
「……キス……あれがキス。……佑とキス。……え、夢?」
ベッドの上で真矢はそんなことをぶつぶつと呟いては、枕を抱えて身悶えていた。
翌朝、疾しい夢を見て慌てて起きた真矢は、下半身の違和感に頭を抱えた。
「……嘘だろっ!」
中学生の時以来の夢精だった……。
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