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「五階の様子は見ておいてやるよ」
「悪いな」
請け負うと、茅野が安心したように表情をゆるませた。返事はせずに、脇をすり抜けてドアを開ける。篠原もだが、この男もなんだかんだと人がいい。身内に対してこれでもかと甘いのだ。
寮長にぴったりの性格してるよな、と成瀬が評していたことがあったが、向原にはよくわからない。
篠原にしても、茅野にしてもそうだ。五年という月日を同じ学園で過ごしてきて、それなりに自分のことを知っているはずなのに、なぜ簡単に信用するのか。敵対する側に回ることはないと思い込んでいるのか。
なにもかも、まったく理解できない。
本来であれば賑やかな時間帯であるはずの寮内は、しんと静まり返っていた。いつもおおらかな寮長がああして威圧していたのだ。指示どおり部屋に籠もった寮生が大半なのだろう。
――それが朝までもてばいいけどな。
面倒ごとは少ないに越したことはない。甘ったるい匂いの中を突き進みながら、小さく溜息を吐く。この匂いは、どう取り繕ったところで、アルファには毒だ。
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