8人が本棚に入れています
本棚に追加
「じゃあ、私達が傘を買ってこようか?」
水莉達の中で、傘を持っていたのは一人だけけ。
もう一人は、ホテルに置いてきたとの事だった。
「いいよ。雨がやむまで待つから」
雨が降らなければ、今頃、三人はここから少し先にある土産屋に行っていたはずだった。
なんでも、恋愛に関するキーホルダータイプの御守りを売っているらしく、それが可愛いらしいデザインで、写真映えするとの事だった。
そこの土産屋しかその御守りを売っていないという事もあって、土産屋は修学旅行生や若い観光客、旅行者を中心に大人気だそうだ。
水莉達は昨日、たまたまホテルでその御守りを見せびらかしている同級生を見かけて、その御守りと売っている土産屋を教えてもらったのだった。
「私はここで待っているから、二人は先にお店に行ったら?」
修学旅行の旅程によると、今日の自由散策を終えたら、明日は帰るだけとなっていた。
御守りを買えるのは、今日の自由散策の時しかなかった。
「でも、いいの?」
「うん。私よりも二人の方が御守りを欲しがっていたよね?」
昨日、ホテルで同級生から御守りの話を聞いた時、水莉よりも二人の方が話に興味を持っていた。
もしかしたら、二人には御守りが必要な理由があるのかもしれなかった。
「私は雨がやんだら追いかけるよ。時間も勿体ないから、先に行って」
顔を見合わせると、二人は悩んでいるようだった。
やがて二人は、わかった、と頷いたのだった。
「早く御守りを買って、あと水莉の分の傘も買って戻ってくるから!」
「うんうん。ありがとう」
水莉は同じ傘に入って土産屋に向かう二人を見送った。
「早く、晴れればいいんだけど……」
水莉が見上げる空からは、絶え間なく大粒の雨が降っていたのだった。
それからも、水莉はお店の軒下で、傘を差して歩いて行く人達を眺めながら、雨がやむのを待っていた。
どうやら、水莉が雨宿りをしているお店は、クリーニング屋らしい。
ただ今日は定休日らしく、ガラス戸を隔てたお店の中は暗く、カーテンが閉められていた。
近くには、時間を潰せそうなお店やカフェもなく、水莉はただただお店の軒下で、雨がやむのを待っている事しか出来なかったのだった。
(二人は、もう御守り買えたのかな?)
二人と別れてから、時間が経っていた。
そろそろ、二人はお店に着いて、御守りを買っていてもいい頃だった。
(それにしても、暇だな……)
先程から、傘を差して目の前を歩いて行く人はいても、水莉の知り合いは誰も通りかからなかった。
スマートフォンはいざという時に備えて、電池を温存しておきたかった。
ここに来るまでに、あちこちで写真や動画をを撮っていたら、結構電池が減ってしまった。
見知らぬ観光地で何があるかわからない以上、スマートフォンの電池は切れないようにしておいた方がいい。
他に時間を潰すものを持たない水莉は、ただ暇を持て余す事しか出来なかったのだった。
最初のコメントを投稿しよう!