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「あ〜あ。雨女なんて、やめたい!」
「わかる! 俺もやめたい」
水莉が独り言を呟くと、水莉と同い歳くらいのびしょ濡れの男子が、軒下に走ってきたのだった。
水莉はギョッとして、後ろに下がった。背中にお店のガラスが当たったのだった。
「びっくりした……」
水莉の心臓は、バクバクと音を立てていた。 男子はどこかの高校生の制服を着ていた。地元の高校生だろうか。水莉の高校の制服ではなかった。
男子はシワシワのハンカチで頭を拭きながら、水莉に話しかけてきた。
「君、見慣れない制服だけど、この辺りの学校?」
「ううん。修学旅行で来たの」
水莉が住んでいる都道府県の名前を上げると、男子は「ああ!」と知っているようだった。
「残念だよな。せっかくの修学旅行がこんな大雨でさ」
「そうだね……。でも、私は雨女だから、こういう悪天候には慣れてる」
「雨女?」
水莉は自分が雨女と呼ばれている所以を男子に教えた。
男子は制服を拭きながら、水莉の話しを聞いていたのだった。
「雨女は大変だよな〜」
「そうだよね! 楽しみにしていた行事やイベントは、いっつも雨天で変更。自宅にある記念写真も、全部雨が降っているの!」
水莉が調子に乗って話していると男子は、「わかるよ」と頷いた。
「俺も雨男だから。気持ちはわかるよ!」
「えっ!? 雨男なの!?」
水莉は男子をマジマジと眺めたのだった。
水莉以外の雨男と会うのは、始めてだった。
「そう! 運動会とかさ、球技大会とかに、雨が降ると、いっつも俺のせいにしてきてさ。酷い時はサッカー部や野球部の連中にさ、『昨日の試合が雨で中止になったのはお前のせいだろう!』って言われるんだよ」
「うちの学校、スポーツに力入れてるの」と、ため息をつく男子に言われて、水莉は苦笑しか出来なかった。
「そっか。それじゃあ、雨男だと苦労するね」
「そうだろう! そう思うよね! 大変だよね!」
男子は水莉に近づいてきた。
「名前を聞いてもいい? 俺は碓水氷太。君は?」
「私は雨宮よ。雨宮水莉っていうの」
「二人揃って、名前に水が入ってるな」
「その上、雨男と雨女でしょ?」
水莉は男子と、碓水と、顔を見合わせると笑ったのだった。
「ねぇ。碓水君は、この辺りの学校に通っているの?」
「ああ。そうだよ。この辺りにある男子校なんだ」
二人の目の前を傘を差した女子高生数人が通り過ぎて行った。水莉の学校の生徒ではない。この近くの学校の生徒だろうか。
「じゃあ、この辺りには詳しいんだ?」
「まあ、それなりには」
「じゃあさ、この近くのお土産屋さんで売っているっていう、恋愛に関する御守りは知ってる?」
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