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雨男・碓水
「碓水君、ありがとう。話を聞いてくれて」
碓水はスマートフォンをいじる振りをしていた。
「ん……」
「それじゃあ、風邪をひかないように気をつけて」
水莉は碓水に背を向けると、待ってていた友人達の元に向かう。
碓水はスマートフォンをいじる振りをしながら、水莉がパサッと傘を開く音を聞いていたのだった。
「ねぇねぇ! あの子誰? てか、いつの間に仲良くなったの!?」
「水莉も隅に置けないね。恋愛に興味なさそうな顔をしながら、他校の男子と仲良くなってさ」
「そんなんじゃないって。この後はどうしようか?」
碓水との関係について詳細を聞こうとする友人達に、水莉は苦笑しながらその場を後にした。
ふと、水莉は後ろを振り向く。
先程のお店の軒下には、まだ碓水がスマートフォンをいじる振りをしていた。
俯きながらもスマートフォンをいじる振りをしている碓水だったが、耳まで赤くなっているように見えたのだった。
水莉は口元を緩めると、友人達の後を追いかけたのだった。
「ああ〜」
水莉達の姿が見えなくなると碓水は大きく息をついて、その場にしゃがみ込んだ。
「可愛い子だった……」
碓水はスマートフォンを地面に置くと、頭を抱えて唸りだした。そんな碓水を道行く人達は、奇妙なものを見るかのように足早に雨の中を去って行ったのだった。
碓水は男子校に通っている事もあり、女子の知り合いもいなければ、女子と話した事さえほとんど無かった。
だからこそ、水莉のような可愛い女子に優しくされて、碓水は照れくさい気持ちになったのだった。
「こんな事なら、もっと早く連絡先を聞いておけば良かった……」
水莉から住んでいる都道府県名は聞いたから、その都道府県の高校のホームページを片っ端から見て、水莉が着ていたのと同じ制服を着た学生が写っている学校を見つければ、学校は特定出来るだろう。
そうして、学校の前で待ち伏せすれば水莉に会える。
ただ、いきなり学校に押しかけるのは、さすがにマズイだろう。近年は防犯の都合上、学校に聞いても水莉の連絡先は教えてくれない。
「はあ……」
碓水が溜め息をつくと、地面に置いていたスマートフォンが音を鳴らしながら、地面の上で揺れ始めた。誰かが電話をかけてきたようだった。
碓水は着信を確認すると、電話に出たのだった。
「氷太、どこにいるんだ?」
「兄ちゃん!」
電話をかけてきたのは、碓水の一番上の兄だった。
「連絡が来ないから心配したぞ。大丈夫か?」
「大丈夫! 修学旅行に来ていた女子高生と話していただけだからさ」
「おっ! とうとう弟にも春が来たのか!? 憎いね〜。コイツ!」
碓水は四人兄弟の末っ子という事もあって、三人の兄達からこうして可愛がられてきた。
実際に兄が目の前にいたら、頭をグリグリと撫でられていただろう。
「止めろって兄ちゃん!」
兄にからかわれていた碓水だったが、兄は咳払いをすると話の本題に入ったのだった。
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