譲れない

2/4
前へ
/4ページ
次へ
先手を打ったのは、兄の智樹。 「朝から何も飲んでないんだよ。喉がカラカラで死にそうだ」 すぐに遥が反撃する。 「喉が渇いただけなら麦茶でいいじゃない。私はガルピスが飲みたいの」 尤もな意見だ。しかし、智樹は追撃の手を緩めない。 「喉が渇いた時のガルピスの美味さを知ってるだろ? 見てみろ、額に浮かぶ汗を。涼しそうな顔をしているお前より、俺の方がガルピスを何倍も美味しく飲めると思わないか?」 「それだけ汗をかいているなら、麦茶だって相当美味しく感じるはずよ。私は汗をかいて無いからこそ、麦茶じゃなくてガルピスを飲みたいの」 どちらも正論だからこそ、勝負は拮抗して動かなかった。そこで、智樹が別の方向から攻撃を試みる。 「分かった。じゃあ、百円やるから好きなジュースを買って来いよ」 一瞬だけ心を動かされたのか、遥の眉がピクリと動いた。それでも、冷静な顔付きは崩さない。 「馬鹿にしないで。そんなはした金では、自販機で何も買えないわ。交渉の最低ラインとして三百円は貰わないとね」 「足元見るなよ。スーパーへ行けば飲み物くらい百円で買えるだろ?」 「嫌よ。智樹が行けばいいじゃない」 百円では近くの自販機で何も買えない。だからと言って、スーパーへ行こうとすれば、往復三十分はかかる。そんな体力は使いたくなかった。そもそも、この炎天下の中ではスーパーへ行く前に逝ってしまいそうだ。
/4ページ

最初のコメントを投稿しよう!

22人が本棚に入れています
本棚に追加