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先手を打ったのは、兄の智樹。
「朝から何も飲んでないんだよ。喉がカラカラで死にそうだ」
すぐに遥が反撃する。
「喉が渇いただけなら麦茶でいいじゃない。私はガルピスが飲みたいの」
尤もな意見だ。しかし、智樹は追撃の手を緩めない。
「喉が渇いた時のガルピスの美味さを知ってるだろ? 見てみろ、額に浮かぶ汗を。涼しそうな顔をしているお前より、俺の方がガルピスを何倍も美味しく飲めると思わないか?」
「それだけ汗をかいているなら、麦茶だって相当美味しく感じるはずよ。私は汗をかいて無いからこそ、麦茶じゃなくてガルピスを飲みたいの」
どちらも正論だからこそ、勝負は拮抗して動かなかった。そこで、智樹が別の方向から攻撃を試みる。
「分かった。じゃあ、百円やるから好きなジュースを買って来いよ」
一瞬だけ心を動かされたのか、遥の眉がピクリと動いた。それでも、冷静な顔付きは崩さない。
「馬鹿にしないで。そんなはした金では、自販機で何も買えないわ。交渉の最低ラインとして三百円は貰わないとね」
「足元見るなよ。スーパーへ行けば飲み物くらい百円で買えるだろ?」
「嫌よ。智樹が行けばいいじゃない」
百円では近くの自販機で何も買えない。だからと言って、スーパーへ行こうとすれば、往復三十分はかかる。そんな体力は使いたくなかった。そもそも、この炎天下の中ではスーパーへ行く前に逝ってしまいそうだ。
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