譲れない

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「分かった、可愛い妹の為だ。ほらっ、ガルピスはお前にやるよ」 「ほんとっ!? ありがとう、おにいちゃん!」 何も知らなければ、美しい兄妹愛に見える。もし、この状況を親が見たとしても、仲の良い兄妹としか目に映らないだろう。 だが、お互いに心の中は真っ黒だ。 遥は冷蔵庫からキンキンに冷えた麦茶の容器を取り出し、ニッコリ笑顔で智樹に渡す。 「おにいちゃん、これをどうぞ」 「ああ、すまない。さあ、遥もガルピスを味わってくれ」 「うん、ありがとう」 …… …… 遥は冷凍庫を開け、一気に青ざめた。ガルピスを冷やす氷が無い。振り返った先には、不気味に微笑む兄の姿。 「騙したのね?」 「騙してなんかいないさ。俺はガルピスを譲った優しい兄だぞ」 仕方が無いので、真夏の熱い水道水で作ったガルピスを口にしてみる。絡みつく生温かい甘さがとても気持ち悪い。 「冷たくないガルピスなんて……ガルピスなんて……」 遥は両膝をつき、絶望の表情を浮かべた。 「どうした、もういらないのか? じゃあ、俺はキンキンに冷えた麦茶でも飲もうかな」 勝ち誇った表情で遥を見下した智樹は、豪快に麦茶を喉へと流し込む。 そして、勢いよく吹き出した。 「ぶばっ! おっ、お前……騙し……」 「ふふっ。どうしたの、智樹? 『麺つゆ』なんて一気飲みして」 …… …… 遥が渡したのは麦茶ではなく、麺つゆだったらしい。 こうして、昼下がりのどうでもいい勝負は、痛み分けで幕を閉じた。 【完】
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