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 涼しい暗闇の中に、時々大きな音が響く。  暗闇と言っても、朝も夜もない深海みたいな深い闇じゃなくて、手元が見える程度の深さの闇だ。  でも闇が薄いだけに、その闇を突き破って、何か恐ろしいモノが出て来そうな不気味さがあった。  たくさんの市松人形が緑色のライトに照らされていたり、障子に影が映ったりするから、全く明かりのない場所はそう多くはなかったけれど、よく知らない暗い場所を一人で歩くのは、やっぱり心細い。  びくびくしながら何とか全部の順路を歩き切ると、私はやっとお化け屋敷の出口に辿り着いた。  急に明るくなった視界の先には、のっぺりとした白い壁。  ここは屋内にあるお化け屋敷なのだ。  私――弓納持日和(ゆみなもちひより)は日本家屋風のデザインの壁を横目に、すぐさまもう一度お化け屋敷の前の短い列に並んだ。  この遊園地にはスリラーカーという洋風のホラー系アトラクションもあるけど、そちらは点検作業中で、今日は乗ることができない。  私のお目当ては、このお化け屋敷だけだった。  ただ乗り物に乗ってさえいれば、目を閉じていても進むアトラクションと違って、このお化け屋敷は自分の足で歩いて回らなければならないから、どれだけ怖くても目を開けていなくてはいけない。  足が震えそうに怖いけど、私の目的を考えれば、ある意味好都合と言えるかも知れなかった。  お化け屋敷に出たり入ったりを、何度繰り返しただろう。  数える気も失せてきた頃には、私はすっかり疲れ切っていた。  思ったより無理をしてしまったようで、少し具合が悪くなってきた気がする。  お化けはもう十分堪能したし、今日のところはこの辺でやめておこう。
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