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 できればどこかのお店に入って涼みたかったけど、こんないかにも具合の悪そうな客に来られたらお店の人も困るだろうし、とりあえず浅草寺のベンチまで移動できれば良しとしよう。  ベンチが空いていなかったとしても、敷地内のどこかの階段には座れるだろうし、このまま道端にしゃがみ込んでいるよりはマシだった。 「では、行くぞ」  お兄さんはそう言うと、いきなり私の膝の裏に腕を差し入れて、私を抱き上げた。  所謂「お姫様抱っこ」というやつだ。  予想外の展開に目をぱちくりさせる私を抱えたまま、お兄さんは花やしき通りを浅草寺の方へ向かって歩き出す。  ただ手を貸してもらって自分で歩くつもりだったのだけど、お兄さんには歩けないくらい具合が悪そうに見えたみたいだ。  見ず知らずの超絶美形の男の人がいきなりお姫様だっこで助けてくれるなんて、少女漫画でもなかなか見ないようなロマンチックなシチュエーションだけど、通りすがりの通行人の視線が痛くて、正直ときめくどころじゃなかった。  お姫様だっこをしている当の本人は、人に注目されることに慣れ切っているみたいで、少しも表情を変えずに歩き続けているけれど。 「……あの、重いですし、下ろしてもらっていいですよ? 只の貧血ですから、ちゃんと歩けますし」 「気にするな。すぐそこだからな」
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