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お兄さんは通りを右に折れると、大小様々な木々に囲まれた道をそのまま歩き続けて、五重塔の裏手にあるベンチの一つに私を下ろした。
丸太を縦に割ったような形の、ちょっと変わった形のベンチだ。
お姫様だっこの緊張から解放された私はほっと息を吐いたけど、ベンチの上には日を遮る物が何もなくて、貧血を起こした体にはちょっときつい。
せっかく連れて来てもらったのに失敗だったかなあと思っていると、お兄さんが懐から折り畳み式の日傘を取り出した。
黒地に紫の蝶が鮮やかな日傘を開いて私に差し出すと、お兄さんは言う。
「使え。多少は暑さが和らぐだろう」
「ありがとうございます」
私はおずおずと日傘を受け取った。
その途端、言いようのない違和感を覚える。
日傘はあまりにも軽かった。
と言うか、重さを全くと言っていい程感じない。
いくら何でも軽過ぎる気がするけど、一体何でできているのだろう。
不思議に思いながらも日傘が作る日陰に入ると、それだけで随分暑さが和らいだ。
できれば何か飲み物が欲しかったけど、そこまでお願いするのは流石に図々し過ぎるし、我慢しよう。
私が額の汗を拭っていると、お兄さんは私をベンチに残して歩き出しながら言う。
「少し待っていろ」
お兄さんは社務所の方へ歩いて行って、一度姿が見えなくなったけど、すぐに戻ってきた。
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