涙雲の向こう側

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「これを投げたのは、あなたですか?」  画面に証拠が映し出された。 検察官が、被告人に問いかける。 「それ投げたのは俺じゃないっすよ。誰か他のヤツが投げたんじゃないっすか?」 被告人は、頭を搔きながらニヤニヤと笑っている。  傍聴席の人々は、被告人の反省の色の無さに、呆れた顔をする者、被害者に同情して涙を流す者、怒りを露にする者によって場内が騒がしくなった。 裁判官が威厳のある声で 「静粛に」 場内が静まると検察官が続けた。 「質問を続けます。被告人、この中に、あなたが被害者に投げた物はありますか?」 再び別の証拠が映し出される。  先の尖った、体に少しでも触れたら一瞬にして傷つき流血するであろう。想像に難くない。そのような石が複数個ある。中でも、球体にぐるりと鋭いトゲのような物があり、いかにも重量がありそうな石。もし、こんなものを投げられたとしたら…… 軽傷で済む筈がない。立派な凶器だ。 被告人は、 「まぁ、あるっちゃありますけど?みんな似たような物投げてるっしょ!?俺だけじゃないし !」 「異議あり。これは、誘導尋問です」 弁護人が裁判官を見る。 裁判官は、 「異議を認めます。検察は質問を変えてください 」 検察官は、 「被告人は、被害者と面識が無いにも関わらず、匿名と言う名の壁に隠れ被害者に向けて、言葉の石を投げつけた。その行為によって被害者の命を奪うと想像できなかったのですか?」 被告人は、苛立ちを露にしながら、 「だーかーら、やったの俺だけじゃないっしょ?数百人からいるんだから。何で俺だけに言うの。始めに投げたヤツが一番悪いだろ。俺の責任とか言われても困るんだけどー 」 不貞腐れる被告人。 再び、場内が怒号や悲鳴、被害者の関係者もいるのか、泣き叫ぶ声で騒がしくなった。 被告人は、悪びれる事もなく、耳をふさいでいる。 そこに、 ドォーーーン と、ひときわ大きな音がした。 そして、一瞬の後、暗転した。  
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