涙雲の向こう側

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 この事件は、SNSの匿名性を利用した殺人事件である。悪意のこもった言葉が何かの変異により石となり、大量に投げつけられた結果、一人の人命が奪われてしまった、得も言われぬ悲しい事件だ。  大量の石に埋まった形で発見された被害者。  事件を調べて行くといくつものパラドックスにぶち当たる。事件解明には相当な時間を要するだろう。  容疑者の特定は、被害者のパソコンを押収して調べた所から始まる。そして情報開示により、最も悪質な言葉の石を投げた者を特定し今回の検挙に至ったのだが…… 凶器として押収された、言葉の塊。 読むに耐えない、残酷な響き。  言葉には霊が宿る。 ポジティブな事を考えればポジティブになり、ネガティブな事を考えればネガティブになる。  もし、誰かを苦しめようとマイナスの言葉で攻撃したつもりが、気付いたらその言霊が全て自分に跳ね返っていたという事はないだろうか。つまり、悪意のある言葉を投げる時、ブーメラン効果で我身に返ってくる。それが例え、自分に返らなくとも自分以外の、大切な誰かに返るとしたら?  シーンとした、真っ暗な裁判所内に、ろうそくの火がボッと灯った。 その薄暗がりの中で、いきなり大きな声がした。
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