別れ話の選任

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 二人掛けの机に、アイスミルクティーが二つ運ばれてきた。  甘そうに見えもするのだけれど、ガムシロップをたっぷりと入れた。  連れの未知留という最近彼氏と別れた子の別れ話を聞かされに来たので、あまりいい気分はしていない。  「みーちゃん、なんか、色々大変だったのね。」 と、取り敢えず適当に話を振っておく。すると、絶対に食いつくだろうという期待の下で。  未知留は、このおしゃれな店の雰囲気を壊すが如く、ストローに無視してコップに口をつけた。店員さんや、近くに座る客からの視線がリアルに冷たい。ホットミルクティーにすればよかったと思った位だ。無惨にも、コップの中身は一気に半分以上無くなってしまった。  「あのさ、私やっぱり別れることにした。」 私は、未知留が、【フリードリンクでも調子に乗ると、お酒を飲んだ人みたいにペラペラ喋るようになる。】とSNSで書いている程のことあるなあと思った。実は、私たちは、今日が初対面で今まではずっとSNS上でのみ、知り合いだった。  「みーちゃん、あんなに幸せそうだったのにもういいの?」 と訊くと、  「もっちんには分からないのよ。」 と言ってきた。そして、わんわん泣き出した。  「私でよければ、何でも聞くよ。」 というと、彼女は、  「ありがとう。」 と言って、申し訳なさそうに、別れた理由であるだろう、彼女が私とやり取りしていたのに機嫌を損ねてしまったことを話し始めた。  きちんと、それらの話を聞き終えて、カフェの席を立った。  レジまで行くと、店員がレジに注文したものを打ち込んでいった。  「アイスミルクティー二杯で、1,100円です。」 アイスミルクティー2杯分しか打ち込まないのに、とんでもない時間がかかっていた。  「ここは私におごらせて。」 と彼女に言った。話を聞いて、私の所為で…と思う節があったからだ。彼女には、夜遅くまで仕事の愚痴を聞いてもらったりもしてたし…。  言うまではいいものの、今日は小銭入れしか持ってこなかったことを思い出した。一人分なら足りるだろうと思って。  こんな時に、というわけでもないが、私は小銭入れにもクレジットカードをいれていることを思い出した。  「クレジットカードで。」 と店員に伝えると、  「こちらの書類に署名をお願いします。」 とレシートのような紙を渡された。 待たせては迷惑だろう、となるべく早く署名をした。  店を出ると、未知留は、  「馬鹿ね、アンタなんかいなければ良かったのに。」 と言ってきた。そして、スマホを立ち上げると、少し前の物と見られるトーク画面を見せてきた。    『私よりも森さんがいいのね?きっと、黙って後ろをついてきてくれるかわいい女の子なんでしょうね。』  ≪それは、君の誤解だって。≫  『誤解って何よ。私に隠れてこそこそ二人でやり取りしてたくせに』  ≪君こそなんだよ、河さんって人とSNSでずっとやり取りしてただろ。優しくて、君を導いていくような男の人なんだろうね。≫      私は、道に立つ鏡に映った自分の顔が見る見るうちに青ざめていくのを感じた。  「河さんって私のことよね。本当にごめん。」 と、言ってみると、  「私が言いたかったのはそれじゃない。あなただって分かってるでしょうに。」 と言ってきた。  彼女は、続けてさっきの署名の写真を見せてきた。そんなの何時撮ったのだろうかともおもうのだが…、そんなのは言い訳に過ぎない。  <森河 砂茅>  「これがアンタの本名なのよね。私は彼のフォローしているアカウントと、彼の知っている連絡先を別れる前に彼から見せてもらったことがあるの。勿論、あっちが自発的に、よ。その時あった森に繋がるような人と片っ端から連絡とって探りを入れて言ってたの。でも、森さんって人はみんな男だった。あなたは、もっちんってことしか知らないけど、もしかしたらと思って呼んでみたらこのざまよ。もうあなただって分かったわ。そして、私の付き合っていた彼氏と何を話していたのか、教えて頂戴。それで納得するから。もう追いかけないから。」  私はもうこれ以上言い逃れは、できないことを悟った。  そして、何故このおしゃれなカフェでの別れ話に私が選ばれたのかをも悟った。少々悲しかった。  これから、彼に言い寄られていたことを話すのは、怖い。  
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