1

1/4
17人が本棚に入れています
本棚に追加
/17ページ

1

 ≪錆都(このまち)≫で、≪発信≫の仕事ができるものはごく限られている。  彼らは特殊なカードを持っていて、それが≪電波塔≫に入る鍵だった。  ≪電波塔≫以外からの≪発信≫は全て禁じられている。  ≪発信≫するものがどのように選ばれるのか、誰も知らない。  実際、≪錆都(このまち)≫の人々は、そんなことに一切関心を抱きはしなかった。  誰がどのように、何の仕事に選ばれるのかなど。  彼自身もそうだ。  そしてもう忘れてしまった。  いつどのように自分がそこに選ばれたのか。  この街では、いろいろのことは忘れられなければならない。  シンジュは自分が十九歳だという年齢を覚えているが、それを確信するに足る記憶は何も持っていない。  そしていずれは、そのことに対する違和感すら忘れてしまうだろう。  大人たちは、皆そうだ。
/17ページ

最初のコメントを投稿しよう!