覗き色

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校門から出ると直ぐに人だかりが出来ていることに気付いた。 またかぁ。 まるで待ての出来ない大型犬みたいだ。なんて呆れた溜め息を吐きながら、俺はその人だかりの横を通り過ぎた。 すると案の定、人混みを掻き分けて俺の後ろを着いて来る気配がある。 「何回言ったら分かるんですか透羽さん。アンタ目立つんだから、せめてもっと人気の無いとこで、」 「何?人気の無いトコで待ち伏せて襲えばいいの?凛陽くんてば大胆だなぁ」 「………」 「あぁちょっと待って置いてかないで!冗談!冗談だからぁ」 「全く、あんなに注目浴びてどうすんですか。…アンタ変装してない方が目立つ癖に」 「分かったやきもちだ」 「ち、が、い、ま、す。俺が一緒に注目されて迷惑被るんです!」 「嬉しいなぁ。じゃあ帰ろっか凛陽」 何ともナチュラルに肩を抱き、彼が向かおうとした方向は明らかに彼の事務所兼自宅の方向だ。 ただでさえ注目の的となっているのに、一度開き直ってしまったらしい彼はそんな周囲の視線も知らん振りでうきうきと楽しそうな顔を隠しもしない。 「サラッと連れ去ろうとしないでくださいよ…。大体今日はタイムセールあるんで」 「じゃあ凛陽ん家お邪魔していい?おれの分も作ってよ。お金は出すから」 「…気紛れな猫に懐かれた気分ですね」 「そう言えば動物に勝手に懐かれる体質だったっけな」 「体質というか…」 確かに昔っから野良猫やら犬やら鳥やら動物に勝手に懐かれることは多かったけれど…。 こんなに厄介で面倒なヒトに懐かれたのは初めてだ。この場合懐かれるっていう表現が正しいのかも分からないが。 「分かるんだよ、動物は多分」 「何をですか」 「教えなぁい」 「言っておきますけど、今日は夜には母が帰ってきますからね」 「ホント?じゃあ正装した方が良いかな?」 「変装じゃなくて?」 「じゃなくて」 「…そのままでいいと思いますよ。中身はどうせ変えられませんし」 「それって褒めてる?」 「貶してます」 「素直。だから好かれちゃうんだよぉ」 「普通は引きますよ。アンタがおかしいんです」 「どっちでもいいよ。まぁいずれは、お義母様にもご挨拶しなきゃだしね」 「はぁ…」 うきうきって効果音が本当に目に見えそう。ただでさえ眩しい本来の姿が更に輝いて見える。 まだ見慣れていないのにそんな満面の笑み、ちょっとは控えて欲しい。かも、なんて。 「透羽さん」 「なぁに」 「別に…呼んでみただけです」 「………」 「何か反応してくださいよ…。恥ずいでしょう」 「いや、ゴメ、自分で呼んだクセに………。ぶふっ」 「晩飯にめっちゃ水菜入れてやる…」 「え、待ってすいませんすいません!凛陽くんに呼ばれて嬉しかったんだよ」 「ふっ、おかしな人だ」 本当に、おかしな人。騒がしくて喧しくて、大人びているのに子供っぽくて。 温かいのに冷たくて、柔らかいのに棘々してて、信じられない癖に信じたがりで。 寂しいのに痛いくらい優しくて、愛に溢れた変な人。 俺みたいなのにこんな眼差しを向けてくる、本当の本当に変なひと。 夏の暑い日、ラムネ瓶の底を覗いたみたいな楽しさとむず痒さをもって、きらきらと鬱陶しいぐらいに光る。 でもまぁ嫌いじゃないから。 結構、好きだから。 だから、さ。 ちょっとくらい汗ばんでても握られた手は解かずに、ゆっくり歩いて行こうかなって。 眩いくらいの笑顔を隣に見上げながらそう、思うんだ。
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