覗き色

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「え?人によって変えてるけど」 「マジですか」 「マジでーす」 変装している時は変声機か何か使っているのか?事務所を案内された時にも思ったけれど、役に入りきっていないタカハシさんの声は姿はどうであっても若い青年のそれそのものだった。 しかもラフな話し方が素の話し方なのか、変装した格好のままそんな普段の声と口調で話されるとちぐはぐでおかしな感じがする。 声だけ聞いていると、低過ぎず高過ぎず、滑らかで聴き心地の好い声だと個人的には思うんだけどなぁ。 まぁそれはともかく。 お客さんが帰った後で、ずっと疑問に思っていたことをぶつけてみるとそんな風にあっけらかんとして返された。 「というか、どうして統一しないんですか?」 「そんなの、気分」 「気分」 「イエス、アイム気分屋」 そんなおじさんの顔でドヤ顔で言われましても。いや待てよ。 「それじゃあもしかして…」 「そ。お客さん毎に変えてるおれの顔、全部覚えてねー」 「えぇー…」 俺は見分けられるとはいえ、お客さん毎の「タカハシさん」を覚えなければいけないと…。余計な仕事を増やさないでください。 全く何て厄介な上司なんだこの人は…。
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