第1話 こうして彼らは恋人になった

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「で、でも俺たちにも対応できるかは……」 「君は一度それを鎮めているし、聞けば原因は不安定になった恋愛感情だという。なら、君がそばにいればそんなことにはならないと思ったんだ。それに……」  そこでより深刻そうに、父親は目を伏せた。 「……あんな動画が世間に出回っている状態では、他に頼める場所もないしね」 「喜んでやらせていただきます」  それを言われると刃には何も言えない。確かに詳しい事情を話せないとなれば、彼女達の存在は近づいたらヤバい爆弾に近い。 「あぁ、わかっているとは思うが、決着が着く前に娘達に手を出したらその時は……分かってるね?」 「勿論でございます」  これは言わば刃自身が望んでやったこと。自業自得というやつだ。そこに不義理があってはいけない。それだけは魂に誓う。 「……これで良いのよね、2人とも」 「うん。ありがとうお母さん」 「それにしてもその年で同棲なんて……若いっていいわね♡」 「ご、ごめんね。皆にこんな我儘言っちゃって……」 「良いのよ。私達は全力であなた達を応援すると決めたんだから。やるからには絶対に彼のハートを射止めなさい」  刃の背筋に何やら寒気が走る。向こうの方から『射止める』とかいう単語が聞こえた気がしたし、やはり命を狙っているのだろうか。 「……っ」  その光景を最後まで眺めていた光は、小さく拳を強く握りしめていたのだった。 「……ヤバいわ」  1人になり、自分の家の、自分の部屋で光は小さくつぶやく。まさか、蓮だけでなく亮や美瑛まで一つ屋根の下で過ごす事になるとは思わなかった。  光は、今まではどこかで慢心していた。どこまで行っても刃は自分を選んでくれると思っていた。だが、過ごす時間というものがどれだけ大事か光が誰より知っている。 「このままじゃ……絶対にヤバい」  かといってどう出来る手段は思い浮かばなかった。光の家は刃の家の隣で一緒に住む理由など皆無だし、今は全員が『彼女(平等)』だ。ならば、この差は大きく出てくるかもしれない。  しかも、向こうは『親公認』だ。多分、既成事実など作らせたなら結婚一直線なんてこともありえなく無い。 「ま、まぁ、その程度大丈夫よ! 些細なことだわ!」  考えすぎだ。寝よう。寝てしまおう。そうすれば心配することも無くなる。光は無理やりに言い訳し、ベッドに潜り込んだのだった。           ☆ 「……で? これはどういうことか、説明してもらおうか、光」  その日の深夜。今度刃の部屋にいたのは光だった。光は刃の上に馬乗りになっているが、暗いせいで顔色を伺うことは出来ない。 「……お互い寝不足だろ? こんな夜中に何しに……」 「……頭では、わかってるのよ。蓮達は今は平等で、本気なんだって。でも」  そこで刃の上に何かが落ちてくる。水のようなそれの正体を、刃はすぐに察した。 「……私は、素直じゃないし、可愛げもないし、ガサツだし、女の子らしくないし、『幼なじみ』ってこと以外に皆に勝ってるとこなんてなくて……」 「……それで?」 「……このままじゃ私、ひとりぼっちに──」 「バカか、お前」  思わず刃は光の頭に手を回し、自身の胸元に引き寄せる。光の顔を見ないように配慮して目を閉じた。 「!? な、何を……!?」 「もうちょい信じろよ。俺が好きなのは、そういうお前だ」  そうだ。刃が好きなのはいつも素直じゃないし、可愛げもないし、ガサツだし、女の子らしくない。でも、時々しおらしくなったり弱かったりする、こんな光なのだ。 「……俺がお前に惚れたのは、そばに居ただけじゃない。光が光だったからだ」 「……でも、私が女の子らしくないのは事実だし……」 「あぁもう、めんどくせぇ」 「な、何よめんどくさいって! わ、私だって自覚して──」  そこで光の言葉は途切れる。正確には、何かを発しようとした口は刃の唇によって塞がれた。 「んっ!!?」  唐突なキスに光は刃を突き飛ばそうと肩を掴むが、刃は光の頭を抑えて離さない。  そのまま5分ほど熱烈な口づけを続けて、大人しくなった光の唇から自身の唇を離した。 「はぁ……はぁ……」 「はぁ……これで、少しはわかったかよ」  言葉はなく、光はただ1回頷いて応えた。 「……多分、今までの中では1番アツいキスしたと思うぞ」 「……それは、まぁ、うん」 「……もっとするか? お前が自信を持てるまで、何度だってやってやるぞ」 「いや、それは、その」  これ以上はマズイ。2人は何となく分かっていた。これ以上進めば、きっと止まれなくなる。  でも、止まりたくない。流されてしまったらどこまで行くのか、それだって知りたい。他の事を差し置いても、今の2人にはそんな欲望しか無かった。 「……光」 「……刃」  2人はもう一度見つめ合う。そうして目を閉じ、ゆっくりと唇を── 「…………(ジーーーーーー)」  重ねる前に、2人は気づいてしまった。 「……なぁ、蓮さんや」 「……何?」 「……お前はなんで、俺の部屋のクローゼットから覗いているんだ?」 「……お構いなく」 「「構うわっ!!!」」  その絶叫に亮と美瑛も起きて集合し、2人してお叱りを受ける流れとなったのだった。
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