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「……んっ」
何か嫌な夢を見たような気がした。何か黒いものが自分を覆って、塗りつぶして、押しつぶす、そんな不安が拭えない。
こんなことではダメだと火野刃はゆっくり布団から体を起こそうとして、
「…………」
確かに押しつぶされていた。隣でスヤスヤと眠る彼女の横顔、その体が軽く自分に覆い被さっていたからだ。
その可愛らしい寝顔に朝日が差し込んで白い肌がキラキラと光る。少し躊躇ったが刃は優しく微笑むと彼女の名前を呼んだ。
「……蓮、起きろ。今日から学校だぞ?」
「……んっ」
言われて寝ぼけ眼を擦りながら蓮は体を起こす。
「……おはよう、刃」
「うん、おはよう。蓮」
東蓮。彼女は去年のクリスマスに付き合うことになった、火野刃の彼女だ。
新年を迎えて数日が経とうとしているがまだまだ冬休み明けの朝は寒い。しかしぴったりくっついて寝ていただけあって布団の中は暖かかった。
長い髪が白い肌にまとわりついて、その朝日に輝いている。見た目だけなら彼氏彼女のアレのあとだが、決してそんなことはしていない。まだ自分たちは健全な関係だ。
そう、例え2人が一緒の布団で寝ていたとしても、
「ところで蓮」
「なに? 旦那様」
「一足飛びどころじゃないスピードで関係を進めるのはやめて頂きたいんですがねぇ」
「……ご主人様?」
「怪しい関係でもない。色々と聞きたいことがあるが、まずは蓮、服はどうした?」
──例え、彼女が一糸まとわぬ姿をしていたとしても。
「脱げた?」
「周りのどこにも見当たらんが」
「盗まれた?」
「気付かれずパンツとブラまで盗める奴がいたらその技術を教えて欲しい」
「たまたま?」
「2日連続で続けばそれは必然だって誰かが言ってた」
「……溶けた?」
「エロ同人のスライムみたいなことにはならねぇ」
「……刃、エロ本読むの?」
「それは今関係ない」
「刃……いいよ?」
「何がだ」
なんとかそっちを見ないようにしているがまずい。このままでは蓮の思う壷。昨日のようなことになる前に対策を──
──ガチャッ。
「「「…………」」」
部屋のドアを開けた制服の上にエプロン姿の光と目が合って、誰からともなく言葉を失う。
「ち、違うんだ光、話せばわかる、話せば……!」
完全に昨日の繰り返しだ。この後は光の逆鱗に触れてボコボコにされる。刃は全力で構えて目を閉じた。
「……分かってるわよ。だから2人ともさっさと降りてきなさい」
「……へ?」
鉄拳代わりのその穏やかな声に驚いて光を見ると、なにやら顔を赤くしている。
「……昨日、あんたが言ったんでしょ。信じてくれって」
「……お、おう」
昨日のことを思い出して2人して顔を赤らめる。それが面白くないのか蓮は小さく頬を膨らませた。
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