プロローグ

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「あっ、2人とも起きてきた。もうご飯できてるから、まずは顔を洗ったりしてきてね」  2階の自室から1階のリビングに向かうと、キッチンに立つ三条亮に笑顔で迎えられた。  可愛いデーディベア柄のエプロン姿で迎えられると、それだけで幸せな気持ちにしてくれる。 「あぁ、サンキューな亮。蓮、先に行ってこいよ」 「うん……ふぁ」 「ほら、私が髪直してあげるからこっち来なさい」  軽く欠伸をしながら洗面所に向かう蓮と面倒を見る光を見届けてから、亮は刃に歩み寄る。 「……今日は大丈夫だったの?」 「あぁ。蓮は相変わらずだけどな」  昨日のことを心配してくれたのだろう。そう言うと亮は複雑な表情になった。 「……つまり、また蓮は刃君の布団に?」 「……う、うん」 「……は、裸で?」 「…………おぅ」 「……」  何やら沈黙してしまう。するのは料理が火によってグツグツと煮立つ音と蓮が顔を洗う音が遠くでするだけ。  亮はキッチンに戻ると火を止めた。その背中からは亮の考えは読めない。 「あ、あのな亮、別に俺達はそういう──」 「じ、刃君」  と、振り向いたかと思えば、その手にあったのは今日作っていたであろう唐揚げだ。 「……はい、あーん」 「……へ?」  彼女が顔を真っ赤にしているのは、この寒さのせいではないだろう。 「り、亮、これは……?」 「わ、私だって、今は、その……」  手が震えている。これも寒さのせいではないだろう。亮が言いたいことも何となくわかる。 「よ、よし亮、来い!」 「う、うん!」  刃は口を開けて、その唐揚げが入ってくるのを待って── 「いっただきぃ!」 ──パクッ!  そんな声と共にその唐揚げは横から来た別の口に吸い込まれた。 「あぁ!? お姉ちゃんいつの間に!?」 「甘いよー亮、隙を見て2人でイチャイチャなんて私の目が黒いうちは……あ、美味しい。もう1個貰っていい?」  三条美瑛。現在人気モデルを務める亮の双子の姉はモグモグと口の中の唐揚げを消化したと思ったら次を要求。マイペースは相変わらずと言ったところか。 「もうお姉ちゃん! 私だって……私だって!」 「わかってるわかってる。ところで亮、あれいいの?」 「へ? あっ、お味噌汁!!?」 「今だよ、刃君」 「えっ、ちょっと美瑛ちゃん!?」  亮が吹きこぼれそうになっていた味噌汁に気を取られた隙に美瑛は刃の手を取って廊下に出た。 「これでよし。お姉ちゃんを出し抜こうなんてまだまだ甘いよー、亮」 「び、美瑛ちゃん。なんで……」 「ぶっぶー。違うでしょ刃君」  顔を膨らませて抗議する美瑛。なんの事か刃にはすぐに思い当たる。 「……び、美瑛」 「……うん! よし!」  と思えば途端に笑顔になる。その優しく明るい笑顔に刃の心も小さく跳ねた。 「はい、刃君!」  と、美瑛は大きく手を広げて見せた。 「……?」 「抱きしめてもいいんだよ?」 「い、いや、それは……」 「光ちゃんには、するでしょ?」  その一言に刃は言葉を詰まらせた。確かに、光相手にはするだろう。同じように迫られれば。だから……、 「……なら、私にもしてよ。今は私だって……刃君の恋人なんだから」 「……っ」  そうだ、約束したじゃないか。その時(・・・)が来るまでは全員を公平に見ると。 「よ、よし、行くぞ、美瑛」 「う、うん」  とは言え、なんだか緊張はしてしまう。相手は超絶美少女モデル。きっと抱きしめられた経験なんか数知れないはず。その中で自分は彼女の求めるハグが出来るのだろうか。  そんなあてのない考えを巡らせながらも体は近づき、もう少しで──
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