第1話 こうして彼らは恋人になった

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          ☆ 「……やっと着いたんですか?」  とある空港に一機のプライベートジェットが降り立った。そこから降りた彼はただ一言、そう呟く。それはただ無機質な言葉で、感情を感じることは出来ない。  当然とも言える。やりたくもない仕事を、しかも僻地でやらねばならないならば、感情を殺さなければやっていられない。  眩しい太陽さえ煩わしく感じられ、自らの金髪を輝かせる日差しを思わず手で遮断した。 「ね、ねぇあの人……!」 「ね! めっちゃカッコイイよね」  その動作だけで周りの女性を湧かせるあたり、彼がイケメンと言われる部類だと確認はできた。後ろにいた彼は少し安堵する。 「……バーザスさん。わかっているとは思いますが、くれぐれも言動にはお気をつけて」  その後にジェットから出てきたもう1人の金髪、ユウ・クリウスは別の意味で憂鬱そうに溜息をつく。 「え!? 嘘!? ユウ君じゃない!?」 「マジ!? ユウ君じゃん!?」  その一言に辺りはちょっとしたパニックに。流石は現役アイドル。ユウが少し笑顔で手を振るだけで黄色い声が飛び交った。 「全く……貴方も災難ですね。普段からこんなことをやってるとは、同情しますよ」 「そう思うなら、少しは普段から協力してくださいよ」 「嫌ですね。今回みたいに命令なら仕方ないですが、普段からなんて寒気がしますよ」  その返答にユウはもう一度溜息をつくことになった。今回の作戦の監修を任されているユウからすれば前途多難な返答である。 「……これが今回のターゲットです。わかっていますよね?」  写真を渡すと、少し驚いた顔をする。まさかとは思うが……。 「……まさか、今初めてターゲットの確認をした、なんて言いませんよね?」 「も、勿論ですよ。こんな可愛い子がターゲットなんて、やる気が上がりますね」  嘘だろう。ターゲットのことを確認していたなら、最初からもっとやる気だったはずだ。それをつっこむと面倒になりそうだったので、ユウは言葉を飲み込んだ。 「……えぇ、本当に、やる気が出ますねぇ」  写真に写った彼女──三条美瑛を眺めながら、彼──『特待生:帝釈天(インドラ)』バーザス・グラインは下卑た笑みを浮かべるのだった。            ☆ ──なんで私は、ここにいるんだっけ? 彼女はそう思って辺りを見回す。  どうやらここは大都市の商業地帯らしく、周りには服屋やご飯屋さん、カフェに本屋にI’temショップ。そして、 「人、多いなー」  人、人、人がごった返していた。こんな人に酔いそうな場所で私は何をしていたのか。 「だーめだ! 私、最初から酔ってるからわかんねぇや!」  アハハハハと笑うと周りから人が引いていく。まぁ仕方ない。私はただの酔っぱらい。こんな真昼間っから道端で千鳥足のやつに近づく物好きなどいないだろう。  しかもまだ酔っている自覚はある。足もふらつくし呂律も少し怪しい。 「ねぇ、お姉さん。1人で何してんの?」 「ふぇ?」  後ろから声が聞こえて振り向くと、男が3人でこちらを見ていた。 「……私ぃ?」 「そうそう!」 「よくこんな酔っぱらいに声掛けたねー? 勇者じゃん!」 「いやいや、そんな美人なんだから声ぐらい掛けたくなるって!」  辺りをキョロキョロと見回して、ショーウィンドウのガラスに写った自身を見た。  修道女の服装にロングの金髪、整った顔つきに豊満なスタイル。背中には大きな可愛いデザインのリュックを背負っており、間違いなく声をかけられそうな目立つ格好をしている。  だからといって、酔っ払って奇声を発しているやつに声をかける理由なんか1つしかない。 「ねぇ、どっかでお茶しない? それか飲み直す? 俺ら良い店知ってるよ?」 「私、未成年だからお酒は飲めないよー?」  そう言うと彼らは目をパチクリさせた。まぁ、信じられないよね。目の前の酔っぱらい具合を見たら。 「ま、またまた。それだけ酔っぱらってるのに……」 「本当なんだけどねー。それより私、そういうまどろっこしいの嫌いなんだよねー。要は、したいんでしょ?」  両手で豊満な自身の胸を持ち上げて見せると、全員がゴクリと喉を鳴らした。素直で可愛いものだ。 「……残念だなー。あと1日早く知り合ってたらヤらせてあげたんだけど」 「はぁ!? ちょ、それってどういう……」 「遅かったってこと。別にヤることに抵抗は無いしねー。」 「じ、時間が無いの? じゃあ今すぐにでも……」 「無理だよ。あと15秒しかないもん。それじゃ気持ちよくなる前に時間切れだし」 「じ、15秒?」 「じゃ、また来世で(・・・・・)頑張ってね」  そう言ってその場を後にする。一応、忠告はしてあげた。 「ちょ、ちょっと待って! 今のはどういう──」  そう聞いてきたところで、彼女が渡りきった信号が赤になり追いかけるのを中断。未だに対岸から話しかけているのが聞こえる。 「……あーあ。私なんかほっとけばよかったのに」  そう呟いた瞬間だった。 ──ドカアアアアアン!!!  後方からけたたましい音がして、彼女を呼ぶ声は消えた。 「じ、事故だ!」 「誰か警察と救急車、早くしろ!」 「ふぁぁ……今日もいつも通り(・・・・・)、平和だなぁ」  辺りの絶叫などそよ風かのように、彼女は歩いていく。それは彼女にとって、ただの日常なのだから。
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