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「だって……それ以外に、私が刃にあげられるもの、何も無いから」
「「……っ!」」
「彼女なら……そういうことをしてもおかしくないし、泊めてもらうのにお金も払えないし、なら、体で払うしかないから」
2人は理解した。蓮はなにも刃としたいという理由だけで行為に及んだわけではない。
もちろんそれもあっただろうが、大きいのは後ろめたさとか、そちらの方だったのだろう。
しかし、これは困ったことだ。確かに蓮が刃に何もしなければ泊めてもらう対価が無いことになる。そうなれば、蓮の後ろめたさが加速するだけ。
だが、働こうにも未成年には親御さんの許可がいることは当然。蓮を追い出した親が許可を出すとは思えない。つまり、お金でも払えない。
「もちろん家事は頑張る……けど、多分、刃がやった方が早くて綺麗……」
「あぁ……まぁ、な」
思い出すのは夏の合宿。蓮と2人で女将さんの手伝いをしたが、あそこで刃は家事スキルをかなり上げていた。
対して蓮は女将さんからお手上げをくらい事実上の傍観者だった為、あまり家事を得意とはしていないことはわかり切っていた。つまり、家事での挽回も期待できない。
「……だったら、私ができるのは、これしか思いつかなくて……」
金銭はダメ、家事もダメ、ならば返す方法はこれだ!となったことは理解した。理解はしたが、それが良い事かと言われると否だ。
「……蓮。俺は別にそんなこと望んでない。この際だから居たいならいつまでも居ればいい。ただ、節度を守ってくれればそれでいいから」
「……そういうわけにはいかない。一緒に住む以上、水道代とか電気代、食費だってタダじゃない。ただのお荷物は、嫌なの」
「「……」」
刃と光は思わず顔を見合わす。蓮の言いたいこともわかる。自分が同じ状況だったなら、ただ養われるのは心休まるわけが無い。間違いなく、引け目を感じてしまう。
なにか無いか。蓮にしか出来なくて、お金を貰えてもおかしくない仕事は。そう考えて、
「……あ! そうだ!」
そこで刃は思い出したのだ。蓮のI’temの活用方法を。
「……刃。何するの?」
刃は蓮と光を連れて台所までやってきた。刃は以前から考えていたことがあったが、試す機会がなかったことがある。
「蓮。確認なんだが、お前が作り出す毒ってのは任意の対象にしか作用しないように出来るんだよな?」
「うん」
「んでもって、その毒性を利用して指定した物体だけを溶かすことも出来る」
「うん。間違いない」
「しかも、I’temを解除すればその毒はただの燈気に戻り、害はなくなる。合ってるか?」
「……合ってる、けど」
光と蓮は顔を見合わせる。いまいち刃の言いたいことが分からないが、何か刃が興奮気味なのは伝わってきた。
「じゃあ……例えばその対象が『微生物や細菌』だったとしても作用するか?」
「……へ?」
「……」
「じ、刃? これで、良かったの?」
蓮の問いかけにも応えず、刃はただ立ち尽くしていた。こんな、こんな事があっていいのかと。
だが、現実だ。奇跡は今、彼の目の前にあった。
思わず刃は蓮の手を両手で優しく包む。
「!? 刃!?」
「蓮。一生俺のそばにいてくれないか?」
「ふぇ!?」
「はぁ!? あ、あんた何言って……!?」
突然の告白に2人は狼狽するが、刃は割とマジである。目の前にある光景に、刃はもう一度目を向ける。
「こんなすげぇ力……俺も欲しい。マジで欲しい」
思わず涙が出そうになる。刃の目の前にあるのはピカピカになったシンク、空っぽの生ゴミ。そして輝かんばかりの掃除されたばかりと思われる台所。
刃の思惑、それは『蓮の毒を清掃に使えないか』ということだった。
蓮の毒は指定した生き物に作用するように変更可能。つまり、微生物や細菌にも有効であった。
それはシンクに付いた頑固な滑り(細菌が元)やカビ(微生物)を根こそぎ殺し、一瞬にして剥がして溶かしてしまった。
また、油汚れだけに作用する分解する毒を生成してキッチンを這わせるだけでご覧の通りの有様。掃除など彼女1人いれば事足りてしまう。
さらに溶かす力は生ゴミも溶かし尽くすことが出来た。つまり、彼女がいればごみ捨てなどしなくていい。一生排水溝などの掃除から無縁の生活となるのだ。
しかも後片付けは彼女がI’temを解除するだけ。それだけで毒は無害なものへと変わる。こんなもの、まさにチートだ。
「すげぇよ。お前さえ居てくれれば、俺はもう何も要らないかもしれない」
「あう、あう、あう」
手を握られ熱烈な愛の言葉を囁かれ、蓮の頭はオーバーヒート。まさかこんなことでここまで刃の心を動かせるとは思わず、思考が完全に停止する。
「(まさか……蓮がこんな形でここまで株を上げるなんて)」
流石に危機感を覚え、光は携帯を密かに操作。
『緊急事態。蓮と刃が急接近。至急対策を立てる』
深夜にも関わらずその連絡から5秒後、同士2人から了解の旨を知らせるスタンプが送られてきたのだった。
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