23人が本棚に入れています
本棚に追加
プロローグ
──それは、PGPの最中まで遡る。
「……これで、20人目ってとこか」
そう言って平沢無限は目の前でのびているトナカイから黒い十字架を回収する。
他の特待生メンツは事態の収集に、一方で無限は1人、この黒いI’temの回収を行っていた。
これは無限の特待生の中でも極めて高い『防御力』故のこと。たとえ襲われたとしても、無限ならば対抗できると考えたからだった。
「さて、次は……ん?」
と、次の獲物を探していた無限の前に、何かが降り立った。
「……」
人だ。外見からすれば女。しかし普通じゃない。
なぜなら、この雪が降り始めるほどの気温の中で身に付けているのは薄い白の布切れ1枚。女の子として露出できない部分を最低限隠しただけ。
無限がそれを『女』と認識したのは、長い髪と綺麗に整った横顔、何より一重にその隠されてはいたものの、存在を主張する『胸部』故だ。
「……おい、女」
怪しいとはいえ、声をかけない訳にはいかない。もしかしたらトナカイ達に何かされ、茫然自失になっている一般人の可能性もあったから。
「……」
しかし、女は何も応えない。空を仰いだまま遠い目をしている。
「……まぁいい。一緒に来てもらうぜ。『箱』!」
鏡の箱に彼女を閉じ込めても、彼女は辺りを虚ろな目で見回すだけ。
「さて、これで粗方片付いたか。しゃーないから上の手伝いにでも──」
「……ねぇ」
と、その女が無限に話しかけてくる。
「……なんだぁ、女」
「……『彼』は、どこ?」
「……『彼』?」
彼氏か誰かとはぐれたとか、そういうことだろうか。
「まずその『彼』ってのが誰かを教えやがれ。それだけじゃわからん」
「……『彼』」は『彼』。それ以上でも以下でもない」
「……」
ダメだ。こいつは会話が成立する気がしない。無限は頭を掻き毟る。
「あー。一旦テメェは下で保護する。そこにテメェと同じく保護された奴らがいるから、そこから探して──」
「……そう、貴方は知らないの」
そう小さく言うと、彼女は掌を無限に向けて、
「……一体、何を──」
「じゃあ、貴方は要らない」
✩
それから暫く、雪は降り続いた。地面を白く染め上げる雪。
──そしてその上から、倒れた無限の鮮血が染み込んでいた。
「……どこに行ったの?」
無限が回収した黒い十字架を拾い上げ、彼女は歩き出す。愛しい人を呼ぶように、憎き宿敵を呼ぶように、恋焦がれるように、声を上げながら。
「どこに行ったの……私の、愛しい人」
そうして彼女は、吹雪いてきた夜闇の風の中に消えていった。
最初のコメントを投稿しよう!