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◇
「で?『人違いです』って言って、走って逃げたんだ?」
実唯が頬杖をつきながら、呆れ顔で私を見つめる。
彼女と向き合うようにして教室の椅子に座っている私は、その視線を遮るように両手で顔を覆った。
「仕方ないでしょ。咄嗟だったんだから」
人差し指と中指の間を開いて、その隙間から実唯の顔をちらりと覗く。
そんな私を冷めた目で見ながら、彼女がふんっと鼻で笑った。
「普通、告白する相手のこと間違えるなんてある?完璧、変な人だよ。じゃなきゃ、ふざけてるよね」
「そうだよね」
実唯の言葉がぐさりと胸に突き刺さる。
彼女から隠れるように開けた指の隙間を閉じると、私はゆっくりと倒れこむように机に伏せた。
あのときのことを思い返すと本当に恥ずかしくて。今すぐにでもこの場から消えてしまいたくなる。
確実に早まった。
早まりすぎた。
あのとき、あんなにも思い切った行動に出れた自分に今更ながらびっくりする。
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