Distance.1 前の席の〈彼〉

5/32
前へ
/428ページ
次へ
席に着くときにカタンと音をたてて地味なアピールをしてみたけど、〈彼〉は全くの無反応。 「じゃぁ、プリント後ろに回して」 教壇に立った教科担当が、一番前の席の生徒にプリントの束を配っていく。 生徒達はその束から一枚自分の分をとって後ろの席の生徒に回す。 私のところにも、前の席の〈彼〉からプリントが回ってくる。 後ろを振り返らずに、プリントを持った腕だけを私のほうに伸ばす〈彼〉。 それを受け取るとき、偶然彼の指先と私の指先が触れた。 その瞬間、指先に微量の電流が走ったように痺れるのは私だけ。 私に触れた〈彼〉の指先は、ぴくりとも動揺を示さない。 そして、私を振り返らない。 彼女、いるんだ…… しかもこの学校のひとつ上の学年に。 ちょっと…いや。だいぶショック。 自分で自覚してたよりもずっと好きだったんだ。 胸を切り裂かれるような切なさに、そのことを強く思い知らされる。 〈彼〉と触れた指先。その手の平を握りしめて息を吐く。
/428ページ

最初のコメントを投稿しよう!

274人が本棚に入れています
本棚に追加