真夜中、助手席で

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「今、ちょっといいか?」  玄関のドアを開けると、父は少し申し訳なさそうに、苦笑いでそう言った。深夜二時過ぎ。さすがにそろそろ寝るかと思った頃合いだった。 「いいけど、急にどうしたの」 「まあ…たまには、な」  答になってない答を口にしながら、照れくさいのか目を逸らす。上げかけて止まったような右手は、煙草を挟んだときのように人差し指と中指が出ている。長い時間をかけて禁煙に成功した後も、指だけがそれを忘れきれてないように見えた。  上がるように促すと、何故か少し逡巡して、 「車、乗らないか?」  と外を指差した。
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