0人が本棚に入れています
本棚に追加
「今、ちょっといいか?」
玄関のドアを開けると、父は少し申し訳なさそうに、苦笑いでそう言った。深夜二時過ぎ。さすがにそろそろ寝るかと思った頃合いだった。
「いいけど、急にどうしたの」
「まあ…たまには、な」
答になってない答を口にしながら、照れくさいのか目を逸らす。上げかけて止まったような右手は、煙草を挟んだときのように人差し指と中指が出ている。長い時間をかけて禁煙に成功した後も、指だけがそれを忘れきれてないように見えた。
上がるように促すと、何故か少し逡巡して、
「車、乗らないか?」
と外を指差した。
最初のコメントを投稿しよう!