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私は、お風呂を上がり、真新しい下着を手に取る。
ふふふっ、そっか。
私は、入っていたスポーツブラを手に笑みをこぼした。ブラはサイズが分からないと用意できないもんね。
私は学生の頃以来、久しぶりにスポーツブラを身につけ、有名ブランドのかわいらしい部屋着を手に取る。優しい色目のふわもこなパーカーとお揃いのショートパンツ。
こんなかわいいの着たことない。
私なんかに似合うのかな。
不安に思いながら、のろのろと身につける。
かわ…いい……
……服は。
ただ、どう見ても、すっぴんの私は服の引き立て役でしかないし、普段出したことのない足が出てる姿は、恥ずかしくて仕方ない。
俊の前でも、こんな風にかわいい部屋着とか着てたら、結果は違ったのかな。毎日、安物のスウェットじゃなくて。
だって、早く結婚費用を貯めたくて、毎日、節約して生活してたんだもん。こんなかわいい部屋着を買う余裕なんてなかった。
食費も切り詰めて、週末も外食せず、私が料理をして部屋で2人でまったりしてた。いや、今、思えば、あれは2人でまったりじゃなかったのかな。俊はテレビを見て、私が家事をして、俊がお風呂掃除をしてくれるだけで、優しい恋人だと思ってた。
私は、それでも全然構わなかったのに。
頬を滴が流れ落ち、私は、慌てて顔を洗い直す。
こんなんじゃダメだ。
勢いとはいえ、涼さんのお嫁さんになったんだから。
私は、化粧水などをつけ、髪を乾かす。乾かしながらも、やはり、俊のことを思い出し、それを忘れるように涼さんのことを考える。そんな堂々巡りを繰り返していた。
パウダールームを出て、リビングに向かうと、いい匂いがする。
「ああ、良かった。よく似あってる」
私がリビングに足を踏み入れた瞬間に涼さんが呟いた。
えっ……
似合ってる?
お世辞だと分かってはいても、その些細な一言で、自分でも驚くほど嬉しくなる。
「ゆっくりできたか?」
涼さんは私を見て、立ち上がりながら尋ねる。私は、こくんと頷いた。
「そろそろだと思って、作っておいたんだ。飯、食うだろ?」
涼さんは、キッチンに向かい、ご飯をよそってくれる。お母さん以外に、そんなことしてもらったことのない私は、慌てて涼さんのもとへと向かう。
「私がやりますから」
私がそう言うと、涼さんは炊飯器の蓋を閉め、反対の手で、私の頭をポンと撫でた。
「体調が悪い時くらい、素直に甘えて、今日はおとなしく俺が作った飯を食え。味の保証はしないけど、まずくはないはずだ」
「……はい」
頷いた私は、素直に席に座った。涼さんは、ご飯に味噌汁、玉子焼きとおひたしを出してくれた。
「有り合わせで申し訳ないが……」
「いえ、そんなこと……」
朝ご飯を出してくれるだけで感激なのに。
「いただきます」
手を合わせて、箸をつける。
「ん!」
お味噌汁を一口飲んで、驚いた。
「おいしい……」
お味噌汁は豆腐とわかめというシンプルな具材だけど、とてもおいしかった。玉子焼きもお出汁の香るおいしいだし巻き玉子だった。
お金持ちだし、お料理なんてしなさそうなのに。
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