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私が冷蔵庫を開けると、そこには、お肉も野菜もそれなりに入っていた。
さっきのお昼ご飯もおいしかったし、涼さんは、お料理する人なのかな。
そんなことを思いながら、美味しそうなキャベツを発見した私は、ロールキャベツを作る。これは、私の得意料理。
涼さん、舌が肥えてそうだけど、大丈夫かな?
おいしいって思ってくれるかな。
一抹の不安を感じながらも、私は一生懸命慣れないキッチンで料理を仕上げる。
「いただきます」
涼さんが食べるのを、私は固唾を飲んで見つめる。
「ん、うまい! 莉緒は家庭科が得意だったのか?」
一口食べて、涼さんが尋ねる。
ほっ……良かった。
「いえ、得意ってほどでは……。ただ、昔から何かを作ることは好きだったので」
だから、今も、商品開発の仕事に携わっている。
ほぼ初対面の2人で向かい合って食事を取りながら、ポツリポツリとお互いのことを話していく。
「莉緒はどんな仕事をしてるんだ?」
「(株)遊心っていう文具メーカーで新商品開発の仕事をしてます」
「へぇ、莉緒が考えた新商品が売り場に並んだりするのって、どんな気分だ?」
「それはもう、すごく嬉しいです。って言っても、私は、まだひとつしか商品化されてないんですけどね」
うちは、中堅の文具メーカーだけど、ちょっと変わった商品が多くて、それなりに話題性もあり、売り上げもそこそこある。
「仕事は楽しいか?」
「はい!
もちろん、大変なこともたくさんありますけど、新しいものを作り出すのは、とても楽しいです」
だから、物づくりが好きな私は、大学では商学部だったけど、採用面接の時から商品開発を希望した。そして、そんな私のやる気と熱意を認めてくれた社長は、丸ごと私の希望を叶えてくれたんだ。
「それならいい。やりたい仕事を思う存分、頑張れ」
でも……
「あの、いいんですか?」
私は心配になって尋ねる。
「何が?」
「あの、涼さんには、お付き合いというか、夫婦同伴でないといけないような場面がたくさんあったりしませんか?」
お金持ちは、そういうパーティーのようなものが、たくさんあるイメージ。
「……ああ。大丈夫。どうしても必要な時は頼むかもしれないが、莉緒は莉緒の好きなように生きればいい」
ズキン……と胸の奥が痛んだ気がした。
『好きなように……』
愛し合って結婚したわけじゃない。
お互い、勝手に生きればいい。
そう言われた気がして。
確かに酔った勢いで入籍しただけ。私だって、涼さんのことを何も知らないし、愛してるかと問われたら、「はい」とは言えない。
それでも、少しずつ分かり合って、思い合って、いつか唯一無二の存在になれればいいと思ったのに。
昔のお見合い結婚も、政略結婚も、見ず知らずの他人のまま夫婦になって、結婚後に距離を縮めて、生涯寄り添い、支え合って生きていた。
私たちもそうなるんだと思ったのに。
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