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その後は、涼さんに尋ねられるまま、当たり障りのない返事をして食事を終えた。
「じゃあ、俺は書斎にいるから、何かあったらいつでも声掛けろよ」
涼さんはそう言うけど……
「あの、書斎って……」
この家のこと、私はまだ全然知らない。
「ああ、そうか。悪い、気付かなくて。案内するよ」
そう言って、涼さんは家の中を案内してくれた。
このリビングダイニングの他に、涼さんの書斎と主寝室があり、ゲストルームもふた部屋ある。私が寝ていたのは、ふた部屋あるゲストルームの一室だった。
じゃあ、夫婦別室ってこと?
今夜は何もない?
さっきまでは、例え、入籍したとはいえ、初対面の人とそんなこと無理って思ってたけど、全く求められないとなると、自分に魅力がないのかと落ち込むんだから、たちが悪い。
私は、気分を変えるべく、部屋で編み物を始める。爽やかな水色のコットンの糸で、シュシュを編む。音楽を聴きながら、無心に編み進め、小1時間で編み終えてしまった。
いいや、寝よう!
そう呟くと、毛糸類を片付け、シャワーを浴びる。さっぱりした私は、水を飲もうと、髪が湿ったままリビングに出た。すると、キッチンで冷蔵庫から水を取り出す涼さんと目が合った。
「莉緒、髪、濡れたままじゃ、風邪ひくだろ」
「え、あの、喉が渇いたので、先に水をと思って」
私が答えると、ふっと笑った涼さんが、グラスに水を注いでくれる。
「どうぞ」
「ありがとうございます」
グラスを受け取った私は、その場で水を飲み干した。そのままグラスを濯いで片付けていると、涼さんが私の髪に触れた。
「莉緒はいつから、この長さなんだ?」
え?
何でそんなことを聞かれるのか分からなくて、私はきょとんとした目で振り返って涼さんを見上げる。
だって、別に特別変わった髪型をしてるわけじゃない。至って普通のボブスタイル。少し、伸びかかって、毛先が肩に少し付くくらいの長さ。今は、洗いざらしのボサボサ頭だけど。
「えっと、就職する時に、気合いを入れようと切りました。学生の頃は、ずっとロングだったんですけど」
「もう伸ばさないのか?」
なんで?
あ、もしかして……
「もしかして、涼さんは、ロングヘアの方が好きですか?」
私が尋ねると、涼さんはパッと手を引っ込めた。
「いや、ロングも似合いそうだなと思っただけだ」
顔を背けて、ペットボトルを冷蔵庫にしまってくれる涼さんだけど、その後ろ姿を見ると、ほんのり耳が赤いのが見て取れる。
ふふふっ
かわいいかも。
イケメンさんだけど、どことなく威圧感を感じる風貌や言葉遣いだと思ってた。だから、少し人間臭いところが見えて、嬉しくなる。
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