新生活

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「じゃあ、もう少し寝てろ。俺はリビングにいるから、もし飯が食えそうならいつでも言えよ」 涼さんはそう言うと、私の頭をくしゃりと撫でて、部屋を出て行った。  私は1人になり、改めて部屋を見回してみる。はっきり言って、何もない。広い部屋の真ん中にダブルベッドとサイドテーブルがあるだけ。窓と反対側の壁が一面クローゼットになっている以外、家具らしい家具は何もない。 生活感のない部屋…… そういえば、涼さんは昨日、どこで寝たのかな? リビングのソファーとかだったら、申し訳ないな。  私は再び寝る気にもなれなくて、そっとベッドを抜け出し、ドアノブに手をかけた。そのままゆっくりとドアを押し開き、窺うように外の部屋の様子を見る。 広い! そこには、私と俊が住んでた1DKの部屋が丸ごと入るようなリビングがあった。 ゆったりとした3人がけのソファーがあり、その向こうにL字になるように配置された2人がけのソファー。床材と同系色のセンターテーブル。  そこから続くダイニングには、ノートパソコンに向かう涼さんの姿があった。 「莉緒、どうした? 眠れないのか?」 こちらに視線を向けた涼さんは、そのまま立ち上がってこちらに歩いてくる。 「はい」 私の目の前まで来た涼さんは、頷く私の背中に手を添えて、リビングへと招き入れる。私をソファーに座らせて、涼さんは尋ねた。 「飯を食うか、シャワーを浴びるか、どっちがいい?」 「えっと……」 正直、お風呂には入りたい。でも、着替えもなければ、クレンジングや化粧水もない。 午後には、引越し業者が来るって言ってたし、そのあとの方がいいのかな。 私がそんなことを思っていると、涼さんはダイニングテーブルの上から、紙袋を2つ持ってきた。 「さっき、下のコンシェルジュに必要そうなものを適当に見繕ってきてもらったんだが、他に何かいるものはあるか?」  袋の中を覗くと、普段使わないような一流ブランドの基礎化粧品の他に、高価なサロン仕様のシャンプーなども入っている。もう一つの紙袋の中には、ふわふわもこもこのかわいい部屋着。その紙袋の中にはさらに紙袋があり、中を開けてみると、どうやら下着のようだったので、私は袋から出すことなく、そのまま元に戻した。 なんて至れり尽くせりなの⁉︎ 「……あの、こんな高価なものをいただいてもいいんですか?」 私は、戸惑いながら、隣に座る涼さんを見上げて尋ねた。 「もちろん。足りないものがあれば遠慮なく言えよ。莉緒はもう俺の奥さんなんだから」 涼さんの左手がくしゃっと私の頭を撫でる。 なんで? 涼さんのその大きな手が触れるたびにドキドキする。 どこを見ていいか、分からなくなる。 出会って間もない男性にこんなことをされるのは、初めてだからかもしれない。
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