11時限目【休日の悪魔】

1/1
前へ
/95ページ
次へ

11時限目【休日の悪魔】

   俺はずっと、勉強に明け暮れていた。  友達と遊んだり、部活をしたり、そんな事に興味が無かった。ただ、偉大な父上に少しでも近付きたい。その一心で、ひたすら勉学に勤んだ。  だから、  こんな学園生活は想像すら出来なかった。  今日も天界に朝が来た。例外なく晴天の空。魔界の空とは似ても似つかぬ、青い空。  今日は日曜日、待ちに待った休日だ。そう、  ——フリーダム!! で、ある!!  そういえば天界に来てからこの学校の敷地外に殆ど出ていない。  毎週、燃え尽きては1日を無駄にする。  外に出る用事は、コンビニに弁当を買いに行くくらいである。天界にもコンビニあるんだな。  もはやヘヴンズマートは俺の行きつけだ。  たまには外の空気を吸って気分転換をしなくては。魔界へ帰る手立ても見つからないままだし、父上に合わす顔がないな。  まさか、夢だった教師がこんなに大変な仕事だったとは、思いもしなかった。  そんな自分の無知が歯痒い。  寝癖を直し顔を洗い、他に服が無いのでいつものスーツを着て街に出てみる事にした。  せめて普段着くらい買わなければいけないな。お給料、前借りしようかな……  ☆☆☆☆☆  天界の街も魔界と大差はない。  普通にビルが並び、普通に商店街もある。  一つ違うのはいつも晴天、曇りや雨の日が無いということぐらいである。雨がなくて、どうやって農作物を育てているのか、とても興味がある。今度、サハクィエル先生にでも聞いてみよう。  彼女なら勘繰ることなく、そして優しく教えてくれるだろうし。天界の情報を探るのにはもってこいな存在だ。  俺は歩きながら街並みを眺める。魔界の石造りの建物とは違い、真っ白で少しばかり光沢のある素材が街を彩る。  魔界でよく見かける獣車は走っておらず、街ゆく人は皆、自らの足で歩き移動している。背中に小さな羽が生えているが、飛ぶわけではなく。  簡単に言えば、魔界は殺伐としていて忙しないが、天界はのんびりとした空気、  天と地の差とはよく言ったものだ。  ——  しばらく歩いた今、俺の眼前に堂々とそびえ立つ巨大な建物。——街で一番大きなショッピングモール、天の川モールだ。  俺は少し立ち寄ってみる事にした。  中は思ったより広くこのモールだけで殆どの物は買い揃えられるようになっている。  そこら中に天使や正天使が、それに天翔(てんしょう)もいる。  天翔とは、男性の天使を指す。天使と同じく卒業する事で正天翔や神官など、それぞれの役職を得ることになる。勿論、普通の職につく者もいる。  天使は皆、天使だと思っていたが、色々と呼び方があったりで少し面倒だ。  魔界みたいに無数の種族分けがあるわけでもないから、覚えるのは容易だが。  それはそうと、かなり広いな。ポスターを見てみると、何やら屋上で出し物があるみたいだ。  暇だし行ってみるか。  ——  これは、ヒーローショー? 『♪魔界戦隊〜デービーレンジャーッ!♪』  チャカチャカチャン!  ズッドォォォォォォォォン!  ……  禍々しい色の煙が上がって主題歌が流れ終わると、舞台の上にデビレンジャーの五人が飛び出した。子供達の歓声があがる。  魔界のヒーローが人気あるんだな。まぁ、魔界でも天使にうつつを抜かしてる奴らがいる訳だし、これも異文化交流の一つか。  それはそうと、子供達、——主に男の子の歓声の中から、聞き覚えのある声が聞こえる。 「わぁ、凄いっす! 本物っす!」 「な? 来て良かっただろ? この後、握手会と写真撮影もあるぞ?」  マールとカマエルだな。本当に好きなんだな。  ん? ガブリエル2世もちゃっかりいるじゃないか。でも明らかにつまらなさそうにベンチに座ってるな。普通はそうだよな。 「ちゃんとBlu-ray特典の半券持って来たかぁ?」 「もちろんっす! さぁ、並ぶっすよ! ガブリンも来るっすよ!」 「う〜、これが終わったら他の場所も回るの〜っ! 早くするの〜! なのーーっ」  ガブリエルよ。そんなに嫌なら今日ぐらいマールと別行動すれば良かろうに。  マールとカマエルが戦隊好き過ぎるのもあるが、ガブリエル2世はマールが好き過ぎるだろ。仲が良いのはいいが。  ——? その時だった。微かにだが、背中に視線を感じた。振り返ってみたが、そこには誰もいなかった。——気のせい、か。  ◆◆◆◆◆  視線はいったい誰のものなのか?  フォルネウスよ、肩の力を抜いて、今は休日を楽しむのだ! 空はこんなに晴れ渡っているのだから。  ◆◆◆◆◆
/95ページ

最初のコメントを投稿しよう!

8人が本棚に入れています
本棚に追加